本場メキシコで戦う日本人プロレスラーの未来を変える挑戦 川人拓来

戦い慣れた日本の地を離れ、プロレスの本場メキシコに身を置き「高み」に挑み続ける男がいる。新日本プロレスの川人拓来だ。2018年2月に来墨後、「ルチャリブレでの戦いは苦難の連続だった。」と語る彼の表情はどこか既に自信を感じさせる。今回amigaは、彼のプロレスとの出会いから8か月間のルチャでの挑戦、そして彼が見据える未来の姿に迫った。

プロローグ

1997年、大阪府池田市のごく一般的な家庭に生まれました。特殊だった事と言えば、母がプロレス好きだったことですかね。小学生の時に初めて母と、テレビの前でプロレスを見た時、体に衝撃が走りました。「俺はプロレスラーになる!」と始めたばかりの野球も辞めて、プロレスにのめり込んでいったのを今でも覚えています。

それからというもの、毎日のように2歳年上の兄とプロレスごっこをしていました。マンションに住んでいたのですが、おかげで家の中はぐちゃぐちゃ。壁に穴が開いてはプロレスのポスターで隠していましたね(笑)プロレスが大好きな母と兄は、今でも自分の試合に「こうした方がいいよ」「ああした方がいいよ」とアドバイスしてくれます。応援してくれてるのか、コーチなのか分からなくなります(笑)

そして小学校の卒業式には、全員の前で「将来はプロレスラーになる!」と宣言したんですけど、周りの同級生はというと、そんな僕の姿にキョトンとしてましたね。「プロレスラー?」って感じで。むしろ担任の先生とか周りの大人の方がプロレスの話で盛り上がってました。休み時間とか懇談会とかでは、会話のほとんどがプロレスで終ってしまうこともありました。

中学に入ると具体的にプロレスラーになるには自分に何が必要なのかを調べるようになりました。入門テストに受かりたいという一心で棚橋さん(棚橋弘至選手)のトレーニング本を買って、兄と割り勘でウエイト器具を購入し、その本に書かれたトレーニングをひたすらやり続けました。

2013年、入門テスト合格

中学3年生になると、近所にあったジムで総合格闘技をはじめました。高校に入学するとそれと並行して空手をはじめ、どちらも新日本プロレスに入門するまで続けていました。僕の憧れの選手が中邑真輔選手で、彼のような打撃の強い選手になりたくて総合格闘技と空手を始めました。

高校2年の時に、マスコミとかファンも来る公開入門オーディションに呼ばれたんですけど、当時16歳だったんですね。でも入門規定には「18歳以上23歳未満の180㎝以上の男子」って項目があって、テスト自体は正直余裕だったんですけど、そのときは年齢で落とされました。担当者から18歳になったらもう一度受けるように言われて、そのときに無事合格することが出来ました。入門オーディションでは、腹筋、背筋、スクワットなどのメニューがあるんですけど、普段から自主的に2倍以上の量をやっていたので余裕でしたね。

100を超えるプロレス団体の中で、新日本プロレスを選んだ理由を教えてください。

小学生のとき初めて見たプロレスが新日本プロレスで、新日本の「ストロングスタイル(実力主義のプロレススタイル)」という考え方にすごく惹かれました。言葉にするのはすごく難しいんですけど、人に勇気を与えると言いますか...もう本当に他の団体には興味がないくらい、新日本プロレスの世界に惹かれていたんです。

新日本プロレスの魅力やファンの皆さんに見てほしいところを教えて下さい。

ファンの皆さんやプロレスに興味を持ち出した方々には、まず選手の「人生」を見てほしいです。これは新日本プロレス特有なんですけど、ヤングライオン(デビューから3年未満くらい)時代のコスチューム、そこから海外遠征や試合を積んで自分のスタイル、カラー、コスチュームが形成されます。そこにある「物語」が魅力的なんです。選手それぞれの「物語」を見た上で、試合の勝敗を見るとよりそこに深みが生まれます。たとえば、ヤングライオン時代は全員黒色のショートタイツとリングシューズを履いているのですが、今僕はメキシコに来てから金髪にして赤色のパンタロンを着用しています。それぞれの選手が作り出すそういった世界観に注目してほしいですね。

今回、2018年2月からメキシコに来られた経緯を教えて下さい。

海外遠征というのは、大体デビューから2、3年の選手が会社から「行ってこい!」という形で派遣されるのですが、「どこに行きたい?」と聞かれたときに僕のスタイル的にもメキシコが合ってると思ってここを選びました。最終的は自分のリング上での成長を見てくれた会社がメキシコ遠征を決めてくれました。

現在の僕の階級がジュニア(100kg未満)なんですけど、この階級でやっていくと決めたのが髙橋ヒロム選手との試合後に本人から言われた一言でした。

「5年後、10年後、俺はチャンピオンでいるよ。オマエがこのベルトさん欲しいのなら、自然とまた巡り会えるだろう。」

それから僕はこの階級で髙橋選手からベルトを奪取すると決めたんですけど、その髙橋選手もメキシコのCMLL(ルチャリブレ)でやっていたんです。それもあってメキシコしかないなという感じでしたね。

メキシコでの生活はどうですか?

日本とはえらい違いですね。もう8ヶ月くらい経つのでだいぶ慣れてきましたが、来る前は心配で心配で(笑)これが初めての海外渡航だったんですけど、飛行機の中で1人ドキドキしながら来ました。来る前のメキシコのイメージは、アスファルトの道なんか無くてどこもかしこも砂地でサボテンが生えてるような景色を想像してましたからね(笑)

あと、衛生的にはかなり苦労しました。メキシコに来てから1ヵ月くらいはずっとお腹を下してしまってたんです。その時は本当にどんな薬を飲んでも効かなくて、とりあえず慣れるしかないということで相当キツかったです。体重も落ちますので、とにかく日本食を食べに行って体重を戻していましたね。なので大体いつも1食で800ペソ(約5000円)とか使っちゃいますよ。またお腹を壊して体重落とすと試合にも支障が出るので、今でもメキシコの屋台では食べないです。最近は自炊もしていて、野菜やたんぱく質の多いものを食べたりして身体作りにも工夫しています。

メキシコの好きなところは、いろんな意味で型にはまってないことですね。人目も気にせずに街でカップルが熱いキスをしてたり、年齢関係なくアミーゴ(友達)って感じで話したりするところです。やっぱり日本だとどこか周りの目を気にして、みんなからはみ出ないように生きるじゃないですか。だから、僕はそうやって型にはまらず自分は自分で生きていきたいです。

CMLL(ルチャリブレ)での戦いには慣れましたか?

最初メキシコに来たときは全然上手く戦えなかったですね。来墨2日後に試合があって、高度で呼吸は上がるし、スペイン語は分からないし、タイミングや間の取り方も分からなかったです。今ではもう慣れてきて、そういったこともその国々の違いなのかなと、それも楽しめるようになりました。

出典 - https://twitter.com/arena_mx/status/967236264540942336

もっとテクニカルなことを言うと、関節技の種類が多すぎて驚きました。日本だと皆さんでもご存知のようないくつかの関節技しかないんですけど、こっちはそれが数えきれないくらいあるんですよ。しかも、その1つ1つに名前があって...さすがに全部は覚えられないです。あと日本は1本勝負なんですけど、メキシコは3本勝負で2本先取した方が勝ちになるという違いがあります。やっぱり体力はこっちの方が使いますよね。

火・金・日曜日がアレナ・メヒコ(シティ)。月曜日がプエブラ。火曜日のもう一つの会場がグアダラハラ。土曜日がアレナ・コリセオ(シティ)になります。1週間で何試合に出場するかはその時によって違うんですけど、多い時には金土日月火の5連戦をしたこともあります。その時はキツイというよりむしろ3日目くらいから覚醒して、「まだまだ出来るぞ!」って感じでした。

実はルチャリブレって野外での試合もあるんですよ。普通の道や公園の中に特設のリングを作って試合をするんです。日本では経験したこと無いので新鮮で楽しいんですけど、僕、結構汚れるのが嫌なんですよ。実は潔癖症で(笑)こけたら背中とかコスチュームとか汚れちゃうので、体幹を最大限使って何とか立つようにしています(笑)

日本からでも川人選手のメキシコでの試合を観戦することって出来るのですか?

はい。視聴方法は2つあります。1つはYouTubeやFacebookのCMLL公式ページで観る方法です。もう1つは新日本プロレスが配信している動画サイト「新日本プロレスワールド(月額999円)」でも僕の出た試合を観ることが出来ます。

新日本プロレスワールド公式ページ

注目してほしいのは、「ノータッチ・トペ・コン・ヒーロ」という技を見てほしいです!相手を場外に落として、自分がトップロープを超えて相手にダイブする技なんですけど、最近着地で立てるようになってきたんです。

あとそれぞれの技の中の滞空時間を見てほしいです。上背のある選手に対してジャンプしてドロップキックするときなんかは迫力を感じてもらえると思います。

川人選手はCMLLでは「Kawato san」と登録されていますが、なぜ「san」なのですか?

あれはほんと自分もよく分からないんですけど、メキシコ人の担当者からは「こっちの方が悪そうに見える。」と言われただけで(笑)日本人の感覚からしたら分からないですよね。むしろ良い人に聞こえますよ。最近ではメキシコ人のお客さんから「SAN!」って呼ばれるようになってきていて、「それはちげーだろ!」って思ってます(笑)

日本人のお客さんもメキシコ人のお客さんも共通して言えるのが、本当にルチャに対してアツい人が多くて驚きました。そういう方々に応援してもらえるのは、すごく嬉しいです。

出典 - https://aminoapps.com/c/wrestling-amino-espanol/page/blog/analisis-glorioso-cmll-viernes-espectacular-de-arena-mexico-13-de-julio-del-2018/JlJw_gwuduPzWkk21zxRWa3kg2m3d0P8dm

最近では「プ女子」と呼ばれるプロレス好きの女性が日本では増えてきていますが、川人選手の恋愛事情について教えて下さい。

ゼロですね(笑)なので試合して、トレーニングして、1人で飯食ってって感じですよ。最近ちょっと寂しくなるときがありますね(笑)

理想の女性は、心が綺麗な人ですね。顔が綺麗とか、スタイルがいいとかいろんな人がいると思うんですけど、心が綺麗な人って自然と美しく見えると思うんですよ。あとは、自分のことを理解してくれる人がいいですね。やっぱり僕の職業も特殊ですから、いろんなことを理解して支えてくれる人がいいです。

今後の目標を教えて下さい。

まずは、IWGP(新日本プロレスが保持するベルト)のジュニアのベルトを獲って、それをメインイベントの舞台に持っていきたいですね。今のプロレスってヘビー級のベルトがメインになることが多くて、ジュニアはどこか下に見られているんです。だから、僕がジュニアのベルトの価値を上げて、注目される階級にしたいです。

あとこれは、プロレスラー全員が思っていることではあると思うんですけど、もう一度、地上波のゴールデンタイムでプロレスが放送されるようにしたいです。いまは地域によって変わるんですけど、夜中の2時3時に放送されてますが、これをゴールデンタイムで放送されるくらいプロレスを人気にしたいです。僕がメキシコから帰って、日本で活躍したときにはそうなってると宣言します!

最後にメキシコに興味を持つ日本人の方々に向けて一言お願いします。

メキシコに対しては治安やマフィアなどいろんな悪いイメージがあると思うんですけど、日本にない魅力的なものが沢山ある国です。歴史的な建造物であったり、美しい教会だったり、ピラミッドもそうですし。僕のおすすめは、国立人類学博物館にあるアステカカレンダーですね。今日を生きることに精一杯だった大昔の人類が、未来を予想して作ったと思うと魅力的に感じます。石に描かれた内容を理解するのは難しいんですけど、本当に1時間でも2時間でも見てられます。僕は4、5回見に行きましたよ(笑)メキシコに来た際は、1回は見て頂きたいです!

読者プレゼント

今回インタビューさせて頂いた川人拓来選手の直筆サイン入り色紙とCMLL公式Tシャツを2名(各1名)の方にプレゼントさせて頂きます。川人選手は色紙への「Kawato san」サイン(メキシコでのサイン)が初めてなので、「Numero 1」と記入して頂きました!応募条件は下記のフォームを入力した上で、amigaのFacebookページをいいねして頂いた方の中から抽選でプレゼントさせて頂きます。応募の締め切りは、日本時間12月31日までとさせて頂きます。なお、当選者の発表は発送をもって代えさせて頂きます。

「amiga」Facebookページはこちら川人選手プレゼント 応募フォーム

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