【インタビュー】メキシコの地で奮闘する鍼灸師

メキシコシティに在住し、鍼灸師/柔道整復師として働く勝野さん。 地元福岡で鍼灸師/柔道整復師として働かれた後、東南アジア放浪、ドミニカ共和国滞在を経てメキシコに渡りました。鍼灸師 勝野さんが今後挑戦したいと考えられている野望についても伺いました。

偉大な鍼灸師との出逢いで進路を決めた

 私は福岡県福岡市博多区で生まれ、メキシコに来るまでは福岡で生活しておりました。世界で一番素敵な街だと思うほど、福岡が大好きです。福岡の食事や街の雰囲気も好きですが、何より人間臭さが福岡の一番の魅力です。屋台に入れば知らない人と話をして、一緒にお酒を飲んで、すぐに誰かと仲良くなれる、そんな空気感が福岡にはあるんです。 そんな福岡で生活しておりましたが、中学、高校生の時分から漠然と海外に憧れを持っていました。中学生の時に修学旅行で韓国の釜山へ行ったのが初めての海外経験で、これをきっかけに海外を意識し始めました。勿論言葉は通じないし、外国人の方々が何を言ってるのか分かりませんでしたが、海外と触れ合うことに高揚感を覚えました。そして高校生の時に修学旅行でマレーシアとシンガポールに訪れたことで、海外への憧れは更に強くなりました。

 地元の高校を卒業し、私は柔道整復の専門学校へ進学します。この道に進むことを決めたのは、一人の鍼灸師、後に私の師匠となる方との出逢いと、同氏への憧れがきっかけでした。小学生だった私は原因不明の高熱に罹り、病院へ行っても熱が全く引かなかったのが、その師匠が針を体に刺した翌日、熱が収まったんです。 当時幼いながらも衝撃を受けたこの出来事を通して、高校時代になっても師匠、そして東洋医学への憧れを抱き続けていました。

日々の挑戦を通して成長を実感

 三年間を専門学校で過ごした後、柔道整復師と鍼灸師の資格を得た私は、福岡の整骨院で働くことになります。並行して、幼い頃から憧れ続けた師匠の元で修行させて頂きました。多忙な毎日を送っていましたが、仕事はとても楽しく、仕事を辞めたいと思ったことは一度もありませんでしたね。 ある日、働いていた整骨院が新しく福岡県内で分院を出すことになり、スタッフチーフとして分院の立ち上げに関わることになります。 その後、診たことのない症例や、経験のない治療に立ち向かうこともあり、毎日が挑戦の日々でした。昼休みや仕事が終わった後、同期の体を借りて仕事の練習に励み、日が変わって帰宅する事もよくありました。そして帰宅後には、治療や練習で駆使して痛んだ指先をアイシングして眠りについていました。

 私の親指は紫色となり、車のキーを回すことも、お箸を持つことでさえ指が痛むほど体力的に厳しかったのですが、この日々を経て得た知識や経験が、未だに自分を助けてくれていますし、育てて下さった患者さんや先輩、同僚には心から感謝しています。 仕事を通しての困難も多々ありましたが、日を追うごとに治療に来て下さる患者さんの数が増え、同時に「有難う」の声が増えていくことが非常に嬉しく、スタッフチーフとして分院で働いたこの日々は柔道整復師として大きく成長出来た時間となりました。

東南アジアを放浪、そしてドミニカ共和国へ

 師匠の下で修行を続けつつ、働いていた整骨院を辞め、習得したかった技術を身につけるべく、新しい整骨院で働くことにしました。 新しい職場に移る前に少し時間が出来たため、予てから計画していた東南アジアへの放浪の旅に出ました。旅を通して東南アジアの人達と触れ合い、人と人との繋がりや絆、人との距離感や思いやりなどの大切さを再確認しましたし、何より、笑顔の持つ素晴らしい力を知ることが出来ました。 この旅ではミャンマー、ラオス、カンボジア、タイを周りました。旅をする中で、各国の文化や現地の人々のことをもっと知りたいと強く思う反面、期限のある旅だったことから、転々と国を移っていったため、その国のことを「もっと知りたい」という欲求を満たすことができないまま、旅を終えてしまいました。旅を通して、現地に住んでみないと分からない部分、見えない部分がたくさんある。旅と移住には埋められない差があるんだと痛感しましたね。旅から帰国し、新しい整骨院で貪欲かつ謙虚な姿勢を忘れないよう自身に言い聞かせながら、新天地で多くのことを学び、働く日々を送ります。

 その後、個人で往診をメインに働くようになった頃、『国境なき鍼灸師を目指して』という一冊の本に出会いました。一人のサラリーマンが一念発起し、鍼灸師になって海外に飛び出すストーリーなのですが、この作品の舞台がメキシコとグアテマラだったことが、僕の人生を大きく変えるきっかけとなります。この本を読んだ後、「これが自分のやりたいことだ」と、心に突き刺さるものがありました。 また、縁あって福岡のスペイン語教室に通うことになり、ドミニカ人の先生と仲良くなったことがきっかけで、ドミニカに三ヶ月の間滞在することになります。 ドミニカは今でも私の最も好きな国なのですが、ドミニカ人は底抜けに明るく、ドミニカでの生活は刺激に満ちた日々でした。ドミニカで日系人のドクターにお会いしたのですが、その方は植物を用いて癌の治療を行っており、先進国で見放された癌患者さん達がそのドクターのもとを訪れ、回復していく姿を見て、人間の可能性の大きさに衝撃を受けました。西洋医学の考え方以外にも人を救う方法は沢山あるんだということを改めて再確認し、もっと医学について学びたい、学ばなければという気持ちに駆られました。

メキシコでも、挑戦し続ける日々

 『国境なき鍼灸師を目指して』を読んだことでメキシコを自然と意識するようになっていた私は、実際にメキシコの地を訪れ、スペイン語学校に通うことになります。 学校でスペイン語を学んだ後、鍼灸師として本格的に個人で往診を始めました。一人目の患者さんを治療させて頂いた後、その患者さんが私のことを周りの方々に紹介して下さり、患者さんが徐々に増え、今では口コミのみで、三ヶ月先まで予約が埋まる様になりました。さらに、メキシコの農村部での医療活動ボランティアにも参加させて頂いており、とても充実した日々を送っております。メキシコで鍼灸師として働き始めてから、約二年が経ちますが、今でも人様のご縁のお陰で生かされてると思うばかりですし、私が鍼灸師としてここメキシコで生きていけるきっかけを下さった方々に対して、ここメキシコで「結果を残す」ことで恩返ししていきたいと考えています。また、メキシコ人の方々が鍼灸師等に対して抱いている期待は、日本のそれに対し、とても大きいことを日々実感しています。

 日本では鍼灸、整骨というのは肩こり解消等のイメージを持たれている方が多くおられますが、鍼灸師、柔道整復師が治療出来ることは一般の皆様が想像してる以上に幅広いです。メキシコ人の患者さん達は、日本人の鍼灸師に対して大きな期待を抱いているため、「こんな状態なんですが、鍼で治療できますか?」という様に、様々な疾患をお持ちの方々から、問い合わせを頻繁に受けます。私自身、日本では診たことのなかった新しい症例に触れることがこの二年間で多々あり、メキシコでの診療を通して、鍼灸師、柔道整復師として大きく成長出来ていると実感しています。 メキシコで仕事をする上での大きなメリットは、メキシコにはどの業界にも競合相手が少ないことから、自身が描くやりたい仕事を実現しやすい点であると感じています。それはメキシコシティのみならず、昨今日系企業が急速に進出しているバヒオ地区やその他地域でも同様です。どの業界でも、その土地で誰より早く仕事をスタート出来ることで得られるメリットは非常に大きいので、メキシコは職種問わず、挑戦心溢れる方々にとって絶好の地だと思っています。 勿論、メキシコには危険な地域も存在しますが、夜歩く時にはこまめに後ろを振り返るようにする、外出する際にはイヤホンをつけない、目立つ格好はしない等、当たり前の事に気をつけて、警戒心を常に持ちながら生活すれば、危険は減らせると考えています。

"Made by Japan"でメキシコに総合治療院を立ち上げたい

 私の今後の目標の一つに、将来ここメキシコで、総合病院のような場所を創り上げたいというものがあります。 現在メキシコは世界一の肥満大国です。そのため、高血圧や糖尿病の患者数も非常に多く、整形外科疾患やスポーツ外傷に限らず、内科疾患に対する治療のご要望も多いです。そんなご要望にお応えするために、医師とも連携を取りつつ、鍼灸マッサージや整骨、理学療法や食事療法、さらには生薬やハーブなど様々なプロの治療家による治療法を組み合わせ、より総合的かつ最善の治療を受けられる様な場所にしたいと思っています。 また、陽気なイメージのあるメキシコ人達も、ストレスによる様々な疾患や症状に悩まされていますので、心理カウンセラーのご協力も得たいですね。 さらに、薬膳を提供、学習できるカフェも併設して立ち上げたいと考えています。

 医食同源という言葉がありますが、これは日頃からバランスの取れた食事をとることで病気を予防したり、治療しようとする考え方です。食を通してでしか解決出来ない病気も多くありますので、薬膳や食事療法に携わっておられる方や農業に携わっておられる方が、メキシコに来て下さらないかと日々願っています。 様々な角度から患者さんに応じた治療ができ、沢山の患者さんを笑顔に出来る、そんな場所をメキシコシティのみならず、メキシコ全土に拡げていきたいと考えています。 まだまだこの考えは絵空事でしかないですが、近い将来、必ず実現させます。日本におられて海外で働くことを検討されている、医療、食、農業関連のお仕事をされている方で、メキシコに興味がある方は是非ご連絡下さいませ。 Email: c.a.j.katsuno@gmail.com このプロジェクトは、Made in Japanではなく、「Made in Mexico」になりますが、「Made by Japan」として日本人による高いレベルのサービスをメキシコのみならず、日本へも送り届け、日本の医療業界に対しても貢献したいと、真摯に思っております。

お名前:勝野 馨太さん

お仕事: 鍼灸師 柔道整復師

Clinica Acupuntura Japonesa KATSUNO 代表

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著者情報

紹介文: Hola! 現在メキシコでインターン中の大学4年生船戸輝(かがやき)です。メキシコでの目標は、「語学?それなら全部ストリートから教わったけど?」って言いながらタコスを食べることです。 よろしくお願いします!

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