【ロシアのウクライナ侵攻】
2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事作戦を行うと述べた演説を各メディアに対して公表しました。その後、ウクライナの首都キエフを含む、ウクライナ各地でロシア軍による砲撃や空襲が開始され、侵攻が始まりました。
ロシアは国連憲章51条の集団的自衛権を主張して正当化していますが、その侵攻は一方的です。
これを受けてウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同24日、厳戒令を布いて戦争状態に入ったと宣言しています。
そして、4月19日現在もこの戦争状態は継続中でロシアの一連の行動を国際社会は強く非難し各国のロシアに対する経済制裁措置も拡大しています。
【ロペス・オブラドール メキシコ大統領の声明】
“No estamos ni a favor ni en contra de Rusia”
「私たちはロシアに賛成でも反対でもない」
ロペス・オブラドール大統領(以下、「メキシコ大統領」)はメキシコ政府として、ロシアがウクライナで始めた侵攻においては、「迅速な対話での平和を望む」と表明しました。しかしながら、メキシコ大統領も、メキシコ外相もウラジーミル・プーチン大統領の行動を公然とは非難せず、メキシコとしては「中立」の立場として姿勢を固めています。
その例として、戦争が始まって以来、各国がロシアに対する制裁を行うなかでも、メキシコ大統領はカンクンへのアエロフロートのフライトのキャンセルなどは義務付けず、ロシアにいかなる種類の経済制裁を課すことも、また西側諸国の支援のように、ウクライナに武器を送ることも拒否しました。
”México es un país libre, independiente, soberano, que no somos colonia de Rusia, ni de China, ni de Estados Unidos”
「メキシコは自由で独立した主権国家であり、ロシアや中国、ましてや米国の「植民地」ではない」
この声明は3月下旬、議会でメキシコ大統領を支持する政党の議員達がメキシコ・ロシア友好グループを設立したことに対し、ケン・サラザール駐メキシコ米大使が、「メキシコはモスクワとではなく、キエフとの連帯を示すべきだ」と述べ、「メキシコの立場はロシアや他の社会主義国との友好関係を望んでいる」というアメリカの抗議への反論として出されたものです。
アメリカとしては、メキシコが西側諸国と連携していないことに憤慨していることは明らかでした。
それに対し、メキシコ大統領としては内政干渉は受け入れないという確固とした態度を示しました。
メキシコ大統領の戦争に対する姿勢はこの声明に顕著に現れていると言っても過言ではないようです。
【メキシコ政府の国際社会での姿勢】
メキシコは国連安全保障理事会の非常任理事国として、ロシアの侵攻を非難する決議に賛成票を投じています。同時に、メキシコ大統領は、今までの国際的な政策でもそうであるように「中立」であり、すべての国との良好な関係を望み、平和を求めているだけであると、複数の公の場で表明しています。
また、メキシコ政府は国連安全保障理事会を通じて、
【平和的な紛争解決】
【ウクライナの領土保全と主権の支持】
【ロシアの侵略の非難】
【人道援助】
の4つのポイントに基づいた立場を築いています。
しかしながら、4月7日に行われた、「人権と国際人道法の違反のために人権評議会へのロシアの参加の停止」に関する国連総会での投票では棄権するなど、メキシコ政府の対応はその4つのポイントとは対照的な立場を取ったと非難されています。
(※中南米諸国からは、アルゼンチン、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、ホンジュラス、ペルーがこの決議に賛成票を投じ、ボリビア、キューバ、ニカラグアの三か国が反対し、メキシコ、ブラジル、エルサルバドルは棄権しました。)
メキシコ政府のその姿勢は
”El ambiguo” 「曖昧」
と揶揄され、国際社会では賛否両論を呼んでいます。
これまで、メキシコの外務省は、国連の外交的立場として重要な役割を果たしてきました。ただし、このようなメキシコ大統領の国際的な姿勢表明は必ずしも実際の行動と伴っているとはいえません。たとえば、メキシコ政府はウクライナから逃げるメキシコ人を救助するため、ルーマニアに送ったメキシコ空軍機で、ウクライナ難民に人道援助を提供することを拒否していました。また、ヨーロッパに戻るウクライナ人がメキシコで立ち往生していることに関しても支援を申し出ることはありませんでした。
これもメキシコ政府独特の中立的立場をとるという姿勢の表れのようで、国際社会で表明することと、実際の行動との違いは、メキシコの外交政策では目新しいものではないようです。
【メキシコ大統領の意図は?】
ウクライナの側に立つのではなく、「中立」とするメキシコ大統領の姿勢は、アメリカやその同盟国がロシアに対して非常に厳しい制裁を実施したにも関わらず、ロシアからの石油とガスの購入を停止することを拒否しているという現実を、「ウクライナを自国の都合をもって支持している」として懸念を示しているともいわれています。
しかし実際には、メキシコとロシアとの関係を害する可能性のある発言や行動を避けているようにも捉えられたりと、真意はわかりません。
【このようなメキシコの姿勢は将来におけるメキシコと国際社会との関係にどんな影響を与えるでしょうか?】
ウクライナで起こっていることを身近に経験しているヨーロッパ諸国は、メキシコの曖昧な態度を「ためらう時間などない」と主張し失望しているといえます。
しかし、ロシアにエネルギー制裁を課すことの難しさからも明らかなように、各国が常に全会一致で戦争に対応できるわけではなく、メキシコの姿勢は理解できる部分もあるのではないでしょうか。。
そして、今のところ、貿易や投資の面でメキシコとアメリカやEU諸国との間での主要な経済関係に影響が生じているとは見られていません。
しかしながら、戦争に対するメキシコのこのような態度は、今後の中南米とカリブ海諸国におけるメキシコのリーダーシップについて懸念される材料になるともいわれています。
【メキシコ国民の反応は?】
メキシコ大統領、政府の国際社会における姿勢はメキシコのお国柄を表している気がします。そして、それがメキシコ人の国民性ではないでしょうか。
女性の権利や労働者の権利など、人権の尊重を重んじ、弱者に優しく手を差し伸べるメキシコ人は政治的な面よりも、ロシアの侵攻によって被害者となったウクライナ国民への救済を重視し発言や行動を起こしているように感じます。
【メキシコのウクライナ大使館がデモを召喚】
メキシコシティのウクライナ大使館は、「ウクライナの平和のために声を上げよう!」というスローガンを掲げて、3月13日にロシアのウクライナ侵攻に反対するデモを呼びかけました。
これには多くのメキシコ人、メキシコ在住の外国人が参加し、共にウクライナの平穏と平和を訴えました。
【平和を愛するメキシコ人】
メキシコ国民はメキシコ大統領が表明する「中立」という姿勢を支持しているように見えます。
そして、平和を愛するメキシコ人は、ウクライナ人の平和、世界の平和を脅かすロシアに対して抗議を続けています。
【まとめ】
新型コロナウィルスの世界的な蔓延が始まった2020年の春より、各国が強固なロックダウンや出入国規制を敢行するなか、メキシコ大統領、メキシコ政府は一貫して渡航制限や隔離等の水際対策をとりませんでした。それによって、コロナ禍における経済活動を継続し、アフターコロナにおいて景気回復のスピードを上げることに成功しました。
メキシコ大統領のこのコロナ禍への対応も、今回のロシアのウクライナ侵攻への姿勢も「メキシコ独自の政策」として他国の干渉に動じないというメキシコらしい一面ではないでしょうか。
そして、それがメキシコ国民の愛国心を強めているように思えます。
今現在でもウクライナにおける悲劇は続いています、一日もはやく戦争が終結し平穏な日々が訪れることを願います。