【ケレタロ発】日本人パティシエ拘りのスイーツとその苦労の日々

10年間摂食障害に苦しんだ過去から「安心できる小さな特別」に拘りメキシコでスイーツブラントを立ち上げた日本人パティシエ、安藤秋。2022年4月のAki Postres 開業までの日々と開業後の試行錯誤の日々について語ってもらいました。

メキシコとの出会い

私は大阪で生まれ大阪で育ちました。お菓子作りに興味を持った理由は、幼少の頃、全く料理をしないお父さんが唯一作ったのがにんじんケーキでした。そんなお父さんがにんじんケーキを作っているのを、横で一緒になって手伝っていたのが私が覚えている最初のケーキ作りの経験です。それがなにか楽しかったんだと思います。それから毎年バレンタインには大量のお菓子を作って学校に持っていっていたり、今思い返して見ると、やはり昔から人の喜ぶ顔を見るのが好きだったんだと思います。

そして高校を卒業後、辻製菓専門学校製菓コースで1年間お菓子作りを学び、学生時代バイトしていたケーキ屋さんにそのまま就職しました。その職場では雰囲気が殺伐としており、毎日が辛くて辛くて、辞めたくてしょうがなかったのを今でも覚えています。

その時に地元や高校の時の友達が大学生になり、海外へ留学に行く姿を見て、それまでは海外に全く興味がなかった私の中にも「かっこいい!私もいきたい!」という思いが芽生え、2年間ケーキ屋さんで働いて貯めたお金でニュージーランドに8ヶ月留学にいくことを決意しました。

ニュージーランド留学から帰国後も、日本でしばらく仕事をして貯めたお金を持って長期で旅行に行くという生活を繰り返していました。ニュージーランド留学で多くのラテンアメリカの人々に出逢い、スペイン語を多く耳にする機会があったり、留学後大阪のスペイン料理店で働いていたことから、どこかスペイン語に憧れはあったものの、特段メキシコに対して強い思い入れがあった訳ではなく、メキシコに初めて来たのも、カナダにいる友達に会いに行ったついでに立ち寄ったことがきっかけでした。

旅行を前に調べ始めたら治安面で悪い情報ばかりが出てきて、「死なないようにしよう。」と決心したのを覚えています。

でも来てみたら、優しくて明るいメキシコ人の人の良さにびっくりしました。当時、スペイン語が一切できなかった私にも、身振り手振りでコミュニケーションをとってくれて、困っている時には迷わず助けてくれる彼らの温かさに、旅行中は何度も救われました。メキシコ中の色々な都市を巡っては、人の温かさにふれ「本当に素敵な国やな〜。また帰ってきたいな〜。」と漠然と心の中で思っていましたが、あくまで旅行での話であって、今のようにメキシコにすんで仕事をすることになるとは、その時は全く想像していませんでした。

コロナウィルスの流行と2度目の渡航

メキシコから帰国後、次の長期海外旅行に向けて、既に大阪のスペインバルで働き始めていたのですが、2020年春からの新型コロナウィルスの流行で何もかもが変わってしまいました。私が働いていたレストランは大きな商業施設の中にあり、その商業施設が営業停止になってしまった経緯から、国の補助で生きる生活になりました。働かないでお金がもらえるなんて、本当に有難い話なんですが、働いてもいないのにお金を頂くことへの違和感が拭いきれず、生きている感覚のない生活を送っていました。

終わりの見えない長いトンネルにいるような気分になっていた時に、前回のメキシコ旅行で出逢い、SNSで繋がっていたメキシコに住む日本人の友達の投稿に「メキシコいいなー」と度々コメントをしていたら「メキシコじゃ、誰もコロナなんて気にしてないよ!おいでよ!」との言葉に誘われ、コロナ禍でのメキシコへの渡航を決意し、2021年の10月末にメキシコへ2度目の渡航を果たしました。

ニュージーランドで出会った友達が使っていたスペイン語にどこか憧れを感じていた私は、渡航当初、スペイン語を教えてもらう代わりに日本語を教えるという条件のもと、語学学校で無償でスペイン語を勉強させてもらっていました。その時はスペイン語の勉強に熱中していて、メキシコで仕事をすることは考えておらず、ましてや自分がメキシコでパティシエとしてブランドを立ち上げることになるとは全く想像をしていませんでした。

摂食障害に苦しんだ日々

実は私は高校生の時から約10年間、摂食障害に苦しめられていました。「太りたくない」「痩せたい」という思いから、食べては吐くことを繰り返していた日々がありました。

嘔吐することにより口内を通過する胃液で歯が少しずつ溶けてしまってしまうことでした。食べることが大好きなはずなのに、食べたら食べただけ吐いてしまう、病院に行っても、薬を処方されるだけで、何もよくならないしそんな日々は本当に辛かったです。

「どうしても治したい!」と思い、悩み考えた結果「自分で1から食べ物を作れば治るんじゃないか」と思い、農家で住み込みでお米作りを体験させてもらったりもしました。それでも治らなかった摂食障害がメキシコに渡ってから、いつの間にか克服することができたんです!医学的な理由はわかりませんが、どんな体型であろうとありのままの自分を愛し、自信を持って自分を表現するメキシコの国民性に助けられたんだと思います。

そんな経験からメキシコが大好きになり「もっとメキシコにいたい!」という思いが芽生え、メキシコで仕事を始めました。その時に見つけたのが現在働いている会社のインターン生募集の記事でした。そこから、Encounter Japanのことをたくさん調べて「絶対面白い!」と思い、連絡しインターンシップとしてスタートを切りました。

最初から挑戦の連続

最初はパティシエという自分の経験が使えるとは全く思っていなかったんですが、私の経歴を知ってくれている料理長の坂本さんから「こんなことやりたいんだけどできる?」とアイディアを求めて頂き、日本で自分がやってきたパティシエの経験をメキシコで活かせる環境を作って頂きました。色んなことを任せてもらい、自由度の高い仕事ができる環境にとてもワクワクしました。

数ヶ月後、弊社代表の西側さんに「秋ちゃん、自分のブランド作ってやってみたい?」と声をかけて頂き、最初は「え?そんなチャンスもらえるの?」と今まで私が働いてきた環境とのギャップに驚きましたが「やるんだったら本気でやりたい」という思いから、自分の名前をとってAki Postresと名付けたスイーツブランドをスタートしました。

理想だけではない、戦いの日々

メキシコの好きなところはたくさんありますが、お菓子を作る環境となると話は違っていて...先ず、材料の質が安定しないんです。同じ会社が製造している同じ商品でも、乳脂肪分がパッケージ毎に全く違っていて...こっちのパッケージから出したものは泡立つのに、別のパッケージから出したものは全く泡立たないみたいなことは日常茶飯事です。調理機材から物流、製品のクオリティまで全て安定している日本の環境は恵まれていたことにそこで初めて気付きました。

本来は季節に関係なく、冷蔵庫とほぼ同じ18度で調理を行わなくてはならないのですが、現在はレストランキッチン内でお菓子を作っているという事情からなかなか温度の管理も難しく。試行錯誤の日々ではありますが、それでも限られた環境と条件で日本の味を実現することに楽しみを感じています。自分が作ったケーキやお菓子を買いに来てくださる方がいて、「本当にいつも美味しいわ!」「ありがとう」と言ってくださるだけで、やりがいを感じています。喜んでくださるお客様の存在のおかげで私はパティシェの道を歩めているのだと思います。

日本の味にこだる理由

最初メキシコのお菓子を食べた時に、甘すぎること、着色料が入りすぎていることにびっくりしました。値段が高い安いの問題ではなく、メキシコの基準がそうなっていると思うんです。

私は自身が摂食障害に苦しんだ経験から、可能な限り自然に反するものは使わないという信念を持っております。お菓子は基本的に相当量の砂糖を使用しているので「本当に体にいいのか」と言われると耳が痛いのですが、大切な人への贈り物や自分へのご褒美になりうるケーキやお菓子が、人の健康を過剰に傷つけることには、なんだか違和感を覚えるんです。

着色料には発癌性があると言われており、日本では自然由来の着色料を使用していましたが、メキシコではまだ自然由来の製菓着色料を見つけられていません。アイシングクッキーなど、どうしても着色料を使用しなくてはならないお菓子はありますが、着色料の使用は最低限に留めています。一方、保存料に関しては一切使用しておらず、保存料を使っていないので日持ちしないのですが、自身の経験から「食」で苦しむ人は見たくない、安心して食を楽しんで欲しい、という思いから可能な限り安心して食べていただけるスイーツの提供に努めています。

これからの Aki Postres

まずは、メキシコに住んでおられる日本人の方々に、「懐かしい」と思ってもらえる、そんな「ホっ」としてもらえるスイーツを提供したいと思っています。そして、メキシコ人の方々にも日本食同様、甘すぎず繊細な味があることを知ってもらい、皆さんの日常の中の小さな特別を彩れるAki Postresになれればと思っています。

メキシコでは会社で従業員の誕生日を祝う文化があると思います。その時に大切な従業員の方との特別な時間をAki Postresで彩れれば嬉しです。また手土産という日本の素敵な文化をメキシコ在住の日本人の方々を通じて、メキシコの社会にも浸透させていければいいなと思っています。

現在Aki PostresはケレタロにあるホテルFUJITAYAレセプション横のミニショップでお買い求め頂けます。またFUJITAYA内にあるレストランGoenでもお楽しみ頂けます。それだけでなく誕生日会やお祝い事用のホールケーキのオーダーも承っておりますので、SNSを通じてどうぞお気軽にご連絡ください。もちろん、サイズや味に関しても相談可能です!

Aki Postres:Instagram Aki Postres : Twitter
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