【ストーリー】Casa Futuro Lab.プロジェクトは、メキシコの貧困層を救う光となるのか。

「未来の家工房」という名のプロジェクトは、廃棄されたトレーラーハウスを使い、低所得者でも尊厳ある家に住める住環境を整えることがミッションだ。そしていずれは、日本人とメキシコ人、さらにはアメリカ人のコミュニケーションの場となって欲しい。そんなビジョンを掲げるのは株式会社KBフォームのメキシコ法人を経営する笠原敬太さん。彼の考えるメキシコと日本の未来の鍵は「共同作業の楽しさ」にある。

なんでも自分で作る日本と、なんでも受け入れるメキシコ

-メキシコ人と日本人の、大きな違いはなんでしょうか。

日本の場合は、一人一人が行程に責任を持つのが当たり前なので、品質も、それぞれが担保しています。ですがメキシコの場合は、作る部署と品質管理の部署は別。もし現場で問題が起きても、品質管理部がデータ上の問題を見つけてから現場に伝わるまで時間がかかるし、現場がじゃあどう改善しようか、と考えることがありません。

-メキシコで「改善」の文化が根付かないのは、品質がよくなると価格が上がって買われなくなるから、と聞いたことがあります。

製造業の発展という点で言うと、隣にアメリカがあることはメキシコにとって不幸だったかもしれません。2国は開発する国と、受け取る国という分担ができてしまっています。日本もアメリカの影響は受けましたが、日本独自の発展を遂げました。日本人は、種子島から鉄砲が来た時にそれを買わずに作ったように、なんでも自分たちでモノにしてしまうんです。

そしてもっと遡ると、400年前、日本はキリスト教を受け入れなかったが、メキシコは受け入れた。そこにも違いがあると思います。

-笠原さんは、メキシコ人社会にとってキリスト教は切り離せない、と度々仰っていますね。

それが日本との一番の違いかもしれません。メキシコの社会を理解するには、キリスト教の「絶対的な神の存在に守られている」というメンタリティーを理解することが非常に重要です。

メキシコでの辛い出来事のひとつに、部品盗難などの問題がありました。監視カメラにある従業員が部品を盗んでいる様子が写っていて、クロなのは明白でしたが、問いだしても「盗んでいません」と涙ながらの訴えをするんです。そこまで嘘を貫ける人がいることは、とてもショックでした。 

後付けですがこの盗難事件は、キリスト教社会ならではの、神への依存の強さからきているのではないかと思ったんです。つまり「自分が部品を盗むのも、神様によって運命づけられたこと」とすることで自分を正当化できる。カトリック教会は贖罪もあり、神父は基本的に全ての罪を許します。カトリックのせいではないですけど、こういうご都合主義な面は確かにあります。

 

今自分ができることは、工場従業員のためにトレーラーハウスを作ること

-メキシコから2010年に戻られて、今またメキシコにいらっしゃるんですよね。

工場経営者として、発泡スチロールを生産するのが主業務ですが、それと並行して非営利法人を立ち上げ、セーフティーネットを作っていく事業をしています。

2010年、メキシコから戻ってきたときに、また日本で頑張ろうって思っていた時期に、東日本大震災が起きました。故郷も被害を受けて、否が応でも生きるか死ぬかを意識せざるを得なかった。「たった今、自分ができること、『必要なこと』は何か。」について、考える大きなきっかけになりました。

-そうして、Casa Futuro Lab.(未来の家工房)プロジェクトが生まれたのですね。

そうなんです。そのとき行き着いたのが、工場労働者の住宅問題でした。メキシコでは900万人が貧困のために、土台と屋根がなく雨風をしのげない家に住んでいます。自分のところで働いていた工場労働者達も、家のない人が半分います。彼らに居住の基盤を提供することが、経営者として自分ができることだと思いました。コストを最小限に抑えるためにも、発泡スチロールの他に住宅用の素材を工場で作ることにしたんです。トレーラーハウスも、メキシコで不法投棄される大量のトレーラーを使おうという発想です。

そして、ただ家を安く買い与えるだけでなく、周囲の住民たちと良い関係を持ったコミュニティーを作りたいのです。例えばティファナはアメリカ人が多いので、トレーラーハウスコミュニティーが英語教育の場になれば、メキシコ人とアメリカ人の交流ができますよね。アメリカ人をメキシコ人にとってのよそものとしてではなく、互いに気持ちよく暮らせる関係が作れるような場にしたい。そしてもちろん、このプロジェクトを通じて、メキシコで何かしたいと思っている日本人とメキシコ人とを取り持つことも大事です。

-自分の範囲で、解決するべき問題を見つけられたのですね。

さっきも言ったように、大量生産大量消費社会に、100%イエス!と言い切れない気持ちもあって、もっと精神的に余裕を持った生活が理想的じゃないかと思うこともある。まだ試作段階ですが、トレーラーハウスはそんな新しい生き方の提案の敷設でもあります。時間がかかるかもしれませんが、10年は辛抱と思っていますね。

Casa Futuro Lab.はメキシコ人と共同するところに意味がある

-かなり長いスパンで見ていらっしゃるんですね。メキシコ人と共同してプロジェクトを進める点にも、こだわりを感じます。

メキシコ人と事業をやるとなったとき、問題も起きますが、10年間何かを一緒にやれば、互いに共感が生まれるかもしれないという期待を持っています。Casa Futuro Lab.は日本人とメキシコ人が一緒にやるところに意味があるんです。今は、千葉大学・アグアスカリエンテス大学との産学連携プロジェクトとして、若い人たちも巻き込んでやっています。2020年、このプロジェクトが完成しているはずなので、その頃にはメキシコで活躍している日本人が増えているといいなと思います。

そのほかにも“Do workshop”と銘打って、いろんなワークショップをやってきました。冗談っぽいテンションでやり始めると本当に体も動く、っていうことがあるんです。メキシコ人っぽい始動の仕方かな?

-このプロジェクトですが、直近では、どのような展開をされる予定ですか?

この夏、今回はかなり本気のワークショップを、ティファナでやります。Casa Futuro Laboプロジェクトの中でも「キッチン」に焦点を絞り、料理やコミュニケーションのデザインをテーマにして、それぞれの分野でスキルを持った人がメキシコに来て、集中して2週間住んでもらいます。

力のあるクリエイターが複数でやると、変におだてなくていいし、こっちも本気出さなきゃというのがあって、お互いに影響しあって美しいものができていますよね。それが僕の考える共同の楽しさです。それをメキシコ人も日本人もどんどん巻き込んでやっていくというのが、今僕がやろうとしていることですね。

笠原さん率いる「Casa Futuro Labo」Facebookページ
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