【ストーリー】留学・インターン生活で見つけた、メキシコのスタイリッシュな一面

東京外国語大学スペイン語学科在学中の山本勇貴さん。2014年の「日墨戦略的グローバルパートナーシップ研修」で、1年間メキシコに留学。日系銀行の現地法人でインターンをしていた山本さんが見たメキシコは、意外なほど洗練された場所だった。

「マチスモ」社会でのカルチャーショック

——大学での留学生活はどうでしたか。

学校に行けば気軽に話しかけられるし、話しかけてくれるのですぐ馴染めました。始めの半年は語学学校と、メキシコ国立自治大学(UNAM)の経営学部でいくつか授業を取りました。始め経済学部の授業を覗きに行ったら、日本とは雰囲気がだいぶ違いました。一番初めに行った開発経済学の授業で、「マルクスの24章『いわゆる本源的蓄積』を全部読んできて」という宿題が出て…これはすぐやめてしまいました。

——大学構内にマルクスの名言とかが落書きされていたり、授業でもマルクスの理論をかなりの比重で学んだりしますよね。

——そう、セオリーは日本の大学でも学べると思ったので、結局実学を学べる経営学部に行くことにしました。そこの学部はませている子が多くて、ちょっとお金持ちで、プレゼンが上手な学生がたくさんいました。日本で言えば、慶応大のSFCのような感じでしょうか。

——ところで山本くんは、もっと強烈なカルチャーショックがあったようですが。

ずばり、ゲイに間違えられたことです。僕はスポーツしたり女の子をナンパするのより、落ち着いた雰囲気の街並みやアートっぽいものに心惹かれるタイプ。ギャラリーにアートを見にいったり、本を読みにカフェに行ったりしている様子を見た友人に「男らしさを感じられない」「ゲイなの?」とか「女の子は好きなの?」と言われたことが何度もありました。僕の恋愛対象は女性なので、そういう風に見られているのかと驚きました。

——メキシコの男の子って、チャラくてマッチョですもんね、山本さんのような「アート系男子」というか「女子力高い男子」はあんまりいません。

メキシコには「マチスモ」、つまり男性優位の文化があって、「男は男らしい」趣味を持ったり、行動をしたりすることが求められるんです。そういうジェンダーの捉え方については違和感がありました。でもメキシコ人の女友達にその話をしたら、「日本だっていい加減マチスモだ。日本のポルノなんて男性優位思想の塊じゃない」と言われて、言い返すことができませんでした。同じ「男性優位」でも、国によって性質が違うことに気づいたことは、興味深い発見の一つでした。

——日本では、振る舞いや態度における「男らしさ」ではなく、役割や制度の面での男性優位の考えが強いですよね。

メキシコでのインターンで、日系企業の技術力を目の当たりに

——そんな学生生活を半年でやめてインターンを始めたのは、さらなる実学を学ぶためだったんですか?

留学する前に提出した計画書に、「日系企業でインターンをしたい」ということは書いていたんです。でもきっかけは偶然でした。日系企業の現地法人の駐在の方々とお会いする機会があり、そこでインターンに関心があるとお話したら、そのまま面接をしてくださいました。最終的には、日系銀行でインターンをさせて頂く運びとなりました。

——「出会い」を仕事につなげていくというのは、とてもメキシコらしいチャンスのつかみ方ですね。でも自動車産業に関心があるのに、なぜ銀行へ行ったのですか?

銀行って、メキシコに進出しているほぼ全ての日系企業と取引があるんです。そしてその日系企業のほとんどは自動車関連の企業なので、よりたくさんの企業、つまり大企業だけでなく中小企業なども含めて、産業全体がどう動いているのかを知ることができると思ったんです。

——より自動車産業を俯瞰的に見られるということですね。実際にインターンしてみてどうでしたか?

やる前はお堅い感じかと思っていましたが、自由な裁量でいろんなことを任せていただきました。始めの頃は、日系企業とのミーティングの議事録をとっていたんですが、そこで技術についてのプレゼンを何度も拝見し、日本の中小企業が持っている高い技術力に感銘を受けました。ずっと「自動車産業」ばかりを研究してきたんですが、それからは日本全体にある企業の技術力と、そして彼らが海外でビジネスを展開するための国際競争力向上を持つにはどうすればいいかについて、関心を抱くようになりました。

——メキシコでのインターンで、日本の企業の底力に気づいたということですか。グローバル社会ならではの体験ですね。

メキシコ人と働くには、楽しい雰囲気は欠かせない

——メキシコ人と働くのはどうでしたか?

仲良くしてくれる「いい同僚たち」に恵まれました。仕事中はジョークが飛び交い、昼休みにご飯を食べに2時に出かけて、それが4時半まで続いたりするときもありました。本当にのんびりしていて、お酒を飲むこともあったりして。彼らは7時に退社するんですが、その5分前にはしっかり帰っていましたね(笑)

——メキシコらしいのんびり具合ですね。笑 当初の関心だった、日系企業で働いていたメキシコ人については、どう感じましたか?

彼らにとっても、日系企業で働くことの居心地はよさそうに見えましたが、やはりコミュニケーションにおいて難しい部分があるというのは正直なところでした。日本人とメキシコ人の英語では、意思疎通がうまくいかないこともよく起こります。

——メキシコ人と接するとき・働くときに、日本人は何に注意すればいいでしょうか?

メキシコ人は意外と、単刀直入に言うのを嫌うので、本音と建前を使い分けることが必要です。日本人的な部分かもしれません。あとは、日々ジョークを絶やさないようにしないと、「つまらないやつ」と思われてしまうのは感じたので、自分も「日本から来たやれてるインターン生」の雰囲気を醸し出すように気をつけていました。笑

帰国後は、すっかり日本の学生に…でもメキシコが恋しい

——メキシコから帰ってからは早速就活をされているとのことですが、メキシコの経験も踏まえて、どんな仕事に就きたいですか?

優秀な学生が集まるところで、なおかついろんな産業に接することができるような業界を見ていました。インターンで、日系企業が国際的に企業価値を上げようとしているのを見ていたので、自分もそれに貢献できるような仕事がしたいと思っています。あとは帰国後、銀行で培ってきた財務の知識を生かしたいと思ったので、「ユーザベース」という、企業の財務情報・株価情報をコンサルティングファームや金融機関に提供しているベンチャー企業でのインターンを始めました。いろんなことを任せていただいて面白いです。

——就活のかたわら、最先端を走る会社でのインターンもして、すっかり日本の学生という感じですね。メキシコに帰りたいとは思いませんか?

メキシコは恋しいですが、とりあえず旅行で行って、友達に会いたいです。将来も、自分の一番の強みであるスペイン語を使って仕事をしたいと思っているので、メキシコで働きたいとも思いますよ。ただ、今は留学する前よりも日本に対しての帰属意識が強くなって、「日本の企業のために働きたい」と思うようになったので、メキシコにこだわらず「日本と世界をつなぐ国際的な仕事」を探しているところです。

メキシコにいると、生きている実感が湧く

——ずばり、メキシコの魅力ってなんでしょうか。

人柄だと思います。みんな喜怒哀楽の感情表現がストレートで…人間の本能的な部分が強いというか、情動的です。例えば、メキシコ人の女の子は、よく泣きよく喜び、すごくセンチメンタルでロマンチスト。コミュニケーションでのスキンシップも多く、何を考えているのかわかりやすい。そういう人たちと暮らしていると、自分も感情が出やすくなるし、豊かになるのを感じました。大げさに聞こえるかもしれませんが、メキシコにいると、日本にいるときより生きている実感が湧くんです。

——よくわかります。感情を押し殺さなくていいというか、童心に戻れるというか。

あとは、先ほど言ったように、メキシコには街並みは魅力的な場所がたくさんあります。ローマ・コンデサ地区もそうですが、グアナフアトという街の、カラフルでこぢんまりとした街並みも気に入っていました。この街では毎年セルバンティーノ芸術祭が開催され、その時期はとても賑わいます。

——最後に、スタイリッシュなメキシコの伝道者として、メキシコに関心がある方にひとことお願いいたします。

日本人の皆さんは、メキシコに対して麻薬とか汚職とか悪いイメージを思っていると思います。でも実際にメキシコに住んでみて、素敵な面がたくさんあることがわかりました。これを読んでいる人には、そんなメキシコの洗練された部分についても、知ってもらえればと思っています。

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