メキシコで活躍する異色の公認会計士 江島 和弘

20代半ばで公認会計士にチャレンジしたことをきっかけに、人生観が大きく変わり、様々なことに挑戦してきた江島さんのストーリーです。

漠然と「公認会計士」への憧れを抱いていた幼少時代

——どういった経緯で公認会計士になられたんですか。

昔から数学が得意で数字が好きだったので、中学の時から、将来は税理士とか経理系の仕事をしたいなと思っていました。高校の時に経理・会計系に詳しい同級生がいて、その道の一番トップが公認会計士だという話しを聞き、会計士に憧れはじめました。

——え、中学生ですか!?

叔父が大阪で小さな食品会社を経営していて、小中学生の時から、会社経営の話を聞いていたりしたので、小さい時から早く仕事をしたいなと思っていたからですかね。それから、私が小学校に入るタイミングで両親が離婚をして母方に引き取られたこともあり、出来るだけ母に負担をかけないようにしなければという意識がありました(実際にはかなり迷惑も心配もかけていましたが笑)。そういう経緯もあって、高校も私立でしたが奨学生として、入学金と学費を免除してもらって通いましたし、大学の時も出来るだけアルバイトと育英会の奨学金を受けて学費を払っていました(たまに遊びすぎて母に泣きついた時もありますが汗)。このため、大学時代は勉強という勉強はしておらず、アルバイトで月20−30万円稼いでいた時期もあります。朝は食品会社の配送から始まり、塾講師や家庭教師、それが終わってから、ピザのデリバリーやケンタッキーや居酒屋の厨房等、とにかくバイト漬け。自分のお金は自分で汗を流して稼ぐ、というのが江島家のルールでした。つまり、お金と数字が好きだったから、会計士になったってことですね笑。

「父の死」をきっかけに一度は諦めた公認会計士への道を再び歩み出す

——お金を稼ぐことを常に意識されていたんですね。大学は商学部にいらしたんですか?

はい、でも大学時代はサークルとバイトに明け暮れていたので、簿記3級さえ持っていなかったし、私立大学にはいったこともあって、金銭面からダブルスクールをする余裕も無かったので、実は会計士のことは一度、諦めたんです。それでも、経理系の仕事につきたいという思いは変わらなかったですし、適正もあるという自信があったので、経理志望で就職活動をしていました。普通はそういう人は簿記の2級ぐらいは当然持っているので、全然説得力がなかったですけどね笑。色んな会社で落とされましたが、「経理やりたいです!」と言い続けていたら、1社だけ化学メーカーの経理で拾って頂けました。

——きっとなにか素養があって、見込まれたということですね笑

ですが、入社して1年くらい経った時に、離婚した父親が急逝した連絡がはいりました。お葬式にも列席した時に、「人はこんなに簡単に亡くなってしまうのか」とかなりショックを受け、一方で自分が死ぬ時に、後悔が無い様に行きたいと思うようになりました。また、私自身、それまでは何に対してもネガディブで、斜に構えた批評家みたいな感じで生きていたんですけど、ちょうど同時期に、当時の彼女から「言い訳ばかりして何も行動をしない人は、いつまで経っても前進しない。可能性は低くてもチャレンジをした人は、失敗をしてもそこから何かを学ぶから、100%の成功でなくても、1歩でも2歩でも今の自分より前には進んでいるから、そういう人が将来は成功を掴むんだろうし、人としても輝いていると思う。」と言われたのが、すごく刺さりました。当時は本当に努力もせずに、パチンコやスロットにもはまっていたので、自分は何をしてきていたんだろう、とても格好悪いなと猛省しました。その二つのイベントが私自身の考え方を大きく変えて、それからは、まずは自分の出来ることからやってみよう、と思うようになりました。当時は経理だったこともあり、まずは簿記の3級と2級を独学で取得し、その後は仕事の合間に大原簿記に通って簿記の1級までを1年ぐらいで取得することが出来ました。思ったよりも1級まで順調に取れたこともあり、会計士への適正もあるのではないかと思い、25歳の時に思い切って会社を辞めて、2年間TACに通って会計士浪人し、27歳の時に会計士の資格を取って、PwC Japanの監査法人(東京事務所)で働き出した、という感じです。

「挑戦する楽しさ」に気づく

——会計士になられてからは、お仕事はどんどん登り調子だったとか…

会計士の受験勉強は本当に死ぬほど頑張った、って胸を張っていえます。そこで努力癖がついて、結果が出た時の快感が忘れられなくなりました笑。仕事だけでなく、自分時間を利用して勉強することがどんどん楽しくなったというのはありますね。自分のスキルを身に着けることが一番のValue(差別化)だとわかったからだと思います。まずは会計の資格を取ったわけですが、当時はさらに自分を差別化するために、ITの知識も身につけたいと思って、情報セキュリティ・アドミニストレーターの資格も取りましたし、社労士の勉強もしてました(これは結局暗記する時間が十分とれずに合格できませんでしたが、社会保険関係の知識は身についたので、監査にも役立ちました)。

それで食べていけるだろうと思っていたら、今後は会計の世界もグローバル化が進みだしました。当時は30歳ぐらいでしたが、英語は大嫌いでTOEICも190点ぐらいをたたき出したこともあるぐらいひどかったです涙。それでも、将来を考えると、やはり英語もこれからは避けて通れないんだと思いなおし、フィリピン英会話などを使って英語の勉強を始めました。英語をコツコツ継続して勉強して、ようやく36歳のころ、TOEIC800点くらい取れるようになり、海外駐在で「新興国」に行きたいという希望を出したんです。私の顔も東南アジア系ですし、馴染みやすいだろうと笑。

海外派遣のチャンスに「メキシコへの切符」を掴む

でも残念ながら、当時は私が具体的に希望していたのは東南アジアのベトナムやインドネシアだったのですが、海外派遣の責任者の方からは、「その辺りは今アドバイザリーとかコンサルのバックグラウンドがある人が欲しいんだよね、でもメキシコも新興国の一つだし、そっちなら応募はあるよ。」といわれ、メキシコのビジネスオポチュニティを調べた結果、これから来る面白いところだと思ったので、「じゃあ行きます!」という流れになって、メキシコに来ることになりました。そんなこんなで気づいたら、英語もまともに話せなかった自分が、スペイン語圏で生活しているわけですからね。がむしゃらにやってみるもんです笑。おかげでさらに差別化が進んでいると思っています。

会計監査の魅力とは

——なるほど、すごい努力家なんですね!それで今は、メキシコではどんな立ち位置で仕事をされているんでしょうか。

PwC Japanから駐在員として、PwC Méxicoという総合コンサルティングファームに出向しており、日系企業のメキシコ進出や会計・監査・税務業務の総合窓口という役割です。実際に業務を提供するのはメキシコ人の各専門家となりますが、日本人の感覚から理解できない部分や言語面のサポート、日本と連携する際に間に入ってCoordinateしたりしています。日本とメキシコで間に挟まれることが多く、なかなかストレスフルな業務ですが、メキシコは今、非常に注目を浴びているので、やりがいは本当にあります。

——江島さんはなにか野望というか、目標はお持ちなんですか?

もちろんありますが、言うと叶わなくなっちゃうので秘密にしておきます笑 ただ言えるのは、会計が好きで、本当に今の仕事は、自分の天職だと思っています。メキシコもこれからの伸びしろが大きくて面白いから、やめたいだとか、他のことをしたい、とは思ったことがない。

——何が会計監査の魅力ですか?

数字とか決算書とか見るのがすごく好きなんです。会計士って、一生のキャリアのうちで不正を発見もしくは遭遇するのって、平均1~2件という統計が出ているんですが、自分は結構引く方なようで、これまで20件くらい遭遇しています(見つけたこともあるし、事後的にわかったこともあります。若い年次の頃は自分が見逃して上司がレビュー時に気づいてくれたことももちろんありますが)。もともと経理をやっていたので、自分が会社の人だったらこういう悪いことが出来るな、と想像してから監査に入るのが良かったのかもしれません。

「不正」に対して真正面から向き合う理由とは

——決算書から不正を見つけるのって、どういうプロセスがあるんでしょうか?

ある程度の仮説を立ててそれを立証していく感じですかね。私らが見ているのは決算書という最終成果物ですけど、そこに至るまでにプロセスがあるから、組織図を見ながら、それを逆に辿っていくと、この辺の人がちょっと怪しい、とかが見えてくるんです。

——なぜ江島さんは不正にまで食い込んでいくんですか?

確かに、もともと会計監査の仕事はあくまで決算書が適切に作られているかどうかの保証(お墨付きを与えること)であって、不正発見が目的ではないです。ただ、実際に怪しいなと思った人を突き止めようとしたら、証拠不十分で逃げられたことや、不正が発覚して翌日自殺していた方も見たこともあるんです。その時もすごくショックで、もっと自分が早く気づいていれば、内部統制(クロスチェックの牽制機能)の改善提案を出来ていれば、そもそもそういう事故が未然に防げたのではないか、その人たちを救えたのではないか、と思うからです。

不正って、どんなに良い人でも、それが出来る環境で、なんらかの誘惑や理由があったら、ついつい魔が差して起こってしまうものだと思います。それが会計士である私でも、たぶんそういう状況になったら、かならず自分の気持ちを抑えきれるかなんて正直わからないんです。それぐらい怖いものなんですよね。実際にこれまで不正をした方を見てきたわけですが、「え!?この人が!?」と思う方がほとんどでした。だからこそ、人はそんなに強くはないんだと思いましたし、それが出来ない環境を作ってあげることが、従業員を守ることなんだと実務を通じて学びました。

だから、そういう意味で、経営者の方にも「内部統制の本当の意味は、形式的なチェック機能ではなく、従業員を守るための非常に重要な機能なんです。」とお話ししています。もちろんガチガチに規律を決めて、負荷だけ増えてしまうと、面倒なものと思われるのもあるので、本質的に意味のある統制を考えて適用しないといけないと思っています。

——みんなが頑張る環境にいるというのもありますか。

もともと高いハードルにチャレンジして合格している会計士は、前向きな人が多いと思います。同期も非常にポジティブで切磋琢磨しあっていいサイクルができ、より高みを目指す、という仲間が仲間を呼んで、とても良い刺激になりました。20代半ばで人生観が変わってから、自分自身もポジティブになり、今ではそれが板についてきてあの頃の自分では想像できないほど別人です。メキシコに来て余計に楽観的になりましたね!笑

メキシコ人とうまく付き合っていくには

例えば、メキシコ人に叱っても言い訳されてそれ以上進まない、もしくは機嫌を損ねてもっと動いてくれなくなるということもありますから、逆に、何といえば頑張ってくれるか?を常に考えています。メキシコ人と働くという意味ではもちろん優秀な方もいますが、基本的には小学生をあやすように、ほめて伸ばすしかない笑。日本に帰ったらお土産も買ってきて、一緒に働くメキシコ人には配っています。少しでも機嫌を良くしてもらう。そして、出来るだけFace-to-Faceで自分の顔を知ってもらうことですね。それだけで動きが本当に変わってきます。

あとは、過ちが起きた時には、どちらか一方が100%悪いということはまずないので、その場合は自分が悪かったところはどこかを考えます。人を変えるのは非常に難しいし労力がいるので、まずは自分自身が悪かった所を改善するように心がけています。人を変えるよりも自分を変える方が圧倒的に早い。つまらないプライドは自分の成長の足かせにしかならないので、変えられると思ったことはすぐに実践するようにしています。そうすることによって、相手も悪かった部分を変えてくれることもあり、より良好な関係が構築できます。

——人格者ですね。

いえいえ、全然そんなことはないですが、でもそう行動しだすと、本当に人間関係がどんどん良くなっていくんですよ。昔は本当に人と付き合うのが苦手で良く悩んでいました。だから、今が楽しくて仕方ないです。

——江島さんご自身が、メキシコ来て変わったことはありますか。

ワークライフバランスについて考える事が増えました。日本にいるときは本当に仕事人間でしたが、メキシコ人を見てると、金曜の午後から日曜日にかけての遊び方が違うのに驚きました。気持ちの切り替え方が半端ないというか。でも、彼らの方が人生の幸福度が高いように見えました。今この瞬間を楽しむ生き方をしているからでしょう。私は将来に投資していると思って、ずっと頑張ってきていましたけど、そうこうしているうちに50、60歳になってしまう、と思うようになって、今は割り切って金曜夜から週末にかけては出来るだけプライベートの時間に使うようになりました。(もちろん、過去に頑張ったからこそ、今それが出来ているというのもあると思います。)

——メキシコで一番苦労されたことはなんでしょうか。

メキシコは大好きですが、メキシコに来て半年くらいは半分鬱状態で、白髪相当増えました。言うことを聞かせようとしすぎて、なかなか思うように動いてくれず、叱ったらそっぽ向かれるので、本当に困りました。それで、メキシコでは「キレたもん負け」だと悟りました笑。彼らに気持ち良く動いてもらう環境を考えるのが自分の仕事なので、彼らの努力を認めた上で「でももっとここをこうしてくれたら、こういうふうによくなるんだよ」とRespectしながら言うことで「そうか、そうだね。じゃあ、頑張るよ!」とわかってくれる。なので、カッと起こりそうになっても、一呼吸おいて見る。いつもこういう言い方したらどういう反応が来るかな、とシミュレーションしています。

——それを実現するまで、色々と困難がおありだったのですね…

一度メキシコ人のパートナーにたてついた時は、本当に危機でした。自分に都合のいいことしか言わないのでちょっと強く出たら、メキシコ人上層部の力を使って、追い返されそうになりました。私の直属の上司や日本人の方のバックアップとサポートのおかげで、誤解が解けて収まりましたが…

——管理職のメキシコ人は、マウンティングしたがるという話も聞きますが。

そうですね、持っていないコンタクトをあたかもあるかのように自慢したりする人もいます。狡猾な人は根回しもうまく、人の足を引っ張って、自分がのし上がる、というのはよくありますね。最後の最後まで裏切られる可能性はある、と覚悟してビジネスしています。本当に戦国時代のクビの取り合いのような、そんな気持ちでは常にいます。油断したらおしまい、ぐらいの覚悟でいます。

メキシコのビジネスにおける今後の展望

——メキシコのビジネス全体についてお聞きします。今日系企業進出のほとんどが、自動車関連の事業に関わるものだと思いますが、製造業以外で増えている業界はありますか。

最近進出している日系企業の8割以上が自動車関連です。Tier1はだいたい出揃って、Tier2, 3ぐらいの会社が増えているところです。機械商社、ロジスティック系(物流会社)も最近は増加していますね。あとは、日系企業の増加に関連して、ファイナンス系でしょうか。三菱東京UFJさんも現地法人がありますし、みずほ銀行さんも法人を設立して、許認可申請の段階です。三井住友銀行もSOFOMという形態で昨年法人設立されています。リース会社もこれから出てくるんじゃないかと思います。

——企業進出ラッシュについて。

インドも伸びてるようですが、メキシコは今、本当にすごいですね。毎年100社を超える日系企業が進出してきていますし、まだこの勢いは2020年頃まで続くんではないかと思います。ブラジルやロシアも厳しいようで、脱中国の流れもあり、インドネシアもピークアウトしてきている現状を考えると、もっぱらメキシコが注目を浴びていると思いますので、これからは、ダントツメキシコだと思いますよ笑。

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