新大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏ってどんな人?
12月1日にメキシコシティで行われた宣誓式で新大統領に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール氏。1976年に政界入りした後、民主革命党(PRD)のタバスコ州委員長、全国委員長に就任し、2000年から5年間メキシコシティ市長に就任すると市民から多大な人気を誇りました。彼は4年前に左派政党「国家再生運動(MORENA)」を設立し、今年7月1日に行われた過去最大規模の総選挙では、同党が労働党、社会結集党と組む連立政権「共に歴史を作ろう」(Juntos Haremos Historia)が両院で過半数を獲得しました。
彼が大統領に就任したことにより90年近く続いていた「制度的革命党(PRI)」と「国民行動党(PAN)」による右派二大政党の政治に終止符が打たれました。ロペス・オブラドール氏の前に大統領に就任していた制度的革命党のエンリケ・ペニャニエト前大統領(2012-2018)の任期中には、経済は低迷し、凶悪犯罪が蔓延するという状況を招いてしまいました。2017年におきた殺人事件数は過去最悪で、3万1000件を超えると言われています。また、今年は既にそれを上回るペースで殺人事件がおきています。特に麻薬に絡む殺害は留まることなく増加しています。ペニャ・ニエト前大統領は大統領に就任する際それまで続いていた麻薬カルテルと政府との抗争の継続を誓っていましたが、ロペス・オブラドール新大統領は前大統領とは異なる犯罪へのアプローチを取ろうと就任前の今年11月に嗜好用マリファナの栽培・販売・使用を合法とする法案を提出しました。
もしこの法案が通れば、2013年に合法化したウルグアイ、今年の10月17日に主要国として初めて合法化したカナダに続き、嗜好用大麻を国として合法化するのはメキシコが3ヵ国目になります。
では大麻合法化によるロペス・オブラドール大統領の目的は何なのでしょうか。
大麻合法化の狙いとは
犯罪を減らす
麻薬カルテルが政治にも強い影響力を持ち、警察の一部もその権力下に取り込まれるなど、国中が麻薬犯罪に汚染されていることにより犯罪件数が年々増加しているメキシコ。ペニャ・ニエト前大統領は、軍隊を投入して武力で麻薬カルテルを抑え込む方針を進めましたが、結果として2017年に過去最悪の犯罪件数を招くなど彼の政策は大きな失敗に終わっています。メキシコ政府はいまだこの麻薬戦争に対して効果的な解決策を見つけられていません。ここ12年間の大統領2人が敷いた禁止政策は、武力衝突を招いただけでした。このような過去の政策に対し、大麻が違法であるがために、その入手や販売をする際に危険や犯罪が多く発生してしまっているというのが新政府の考えです。
さらに、この12年間取られてきた強硬策によって大麻の使用は抑制されたどころか広がっています。2011年に6%だった大麻の使用は2016年には8.6%に増加しました。このようなデータから、新政府モレナは犯罪が増加している問題に関して、大麻の使用を根絶することはできないため、この問題に取り組むためには別のアプローチが求められていると考えています。大麻使用に対する政府の介入の主な指針として、自己決定権と大麻使用者の健康を重要視する方法こそが問題を効果的に解決することができると法案の中で述べられています。
今回の総選挙での勝利も国民がこれまでの強硬路線に問題解決の可能性を見出せず、新たなアプローチに期待した結果だと言えます。
マリファナの有用性
モレナのオルガ・サンチェス・コルデロ内務大臣とリカルド・モンレアル・アビラ上院議員は様々な研究に基づき、大麻の主な有効成分であるテトラヒドロカンナビノールとカンナビジオールがガン、糖尿病、緑内障、てんかん、うつ病などの病気の治療に効果的であると発表しています。彼らは「大麻は使用者の身体に望ましくない影響を及ぼすことがあります。しかし、アルコールやたばこのような現在合法的なものよりも、大麻のこれらの負の影響が健康に及ぼす危険性が低いことを示す科学的研究があるのです。」と述べています。
もちろん使用量や使用頻度はしっかりと配慮しなければなりませんが、これらの根拠を基に新政府はマリファナの有用性を認めるとともに、アルコールやたばこよりも危険性が低い大麻の使用に対して武力を使って禁止することで犯罪が蔓延している状況を変えようとしています。
最後に
この大麻合法化法案に加え、メキシコを悩ませている薬物戦争に対しロペス・オブラドール氏は麻薬取引に関連する非暴力的な犯罪者の恩赦などといったいくつかの「積極的なアプローチ」を取ると約束しています。
ペニャ・ニエト前大統領の6年間の政権によって政治、社会、経済、外交と最悪の状態に陥ってしまったメキシコ。現大統領の公約の中心は犯罪と汚職の撲滅です。そして目標に掲げているのは貧困への救済です。経済の低迷に関して、ロペス・オブラドール氏はこれまで長年続いた右派政権によって貧富の格差が広がってしまった新自由主義からの決別を表明しています。また、教育や職業訓練を十分に受けていない若者たちが犯罪組織に加わっている状況が凶悪犯罪を生んでしまっているとロペス・オブラドール氏は考え、そうした約700万人の若者を対象とした大規模な奨学金システムを作り上げる計画を公約に掲げています。
12月1日に発足した新政府ですが、提出された大麻合法化法案は可決されるのかを始め、今後公約がどれほど実現されるのか、どのような政策が打ち出されるのか、新たにメキシコの将来を担うことになったロペス・オブラドール新政府に注目が集まります。大麻の合法化がもたらす悪影響など、初めての左派大統領に不安も寄せられていますが、メキシコの再生が期待できるかもしれません。