ウーパールーパーってメキシコにルーツがあるの?
そうなんです。ウーパールーパーの原種であるメキシコサラマンダーはメキシコのソチミルコ湖及びその周辺に生息しています。しかし、ソチミルコ湖は土地開発や埋め立てなどによりほぼ残っておらず、いまでは運河と水路が細々と残るのみとなっています。生息地の減少に加え、水質の悪化や食用に放流されたコイやティラピアなどの外来種による捕食、同じエサの取り合いによって野生のメキシコサラマンダーの数は激減。自然界のメキシコサラマンダーは、2020年には絶滅してしまうともいわれています。
ウーパールーパー?メキシコサラマンダー?
正式には「メキシコサラマンダー」、「メキシコサンショウウオ」、「アホロートル」などと呼ばれます。さらに、「ウーパールーパー」と聞いて多くの人がイメージする白いメキシコサラマンダーは、突然変異で現れたものを品種改良で固定したものなんです。野生のメキシコサラマンダーの体色は様々ですが、多くが青みがかった黒色です。
「ウーパールーパー」という名前は、日清のカップ焼きそば「UFO」のTV CMに宇宙からやってきたキャラクターとしてメキシコサラマンダーが起用されたことにより日本のみで広まった呼び方なんです。
メキシコサラマンダーの再生能力って?
人間の肝臓は再生能力に優れていて、全体の1/3が残っていれば元の大きさまで再生します。これと同じような再生能力が、メキシコサラマンダーにもあります。人間と異なる点は、その再生能力が桁違いに優れているということです。メキシコサラマンダーは足がなくなっても、骨や筋肉、神経まで完全に再生できます。とかげも、自分のしっぽをわざと切り離し再生させることで有名ですが、メキシコサラマンダーは、目の水晶体や脊髄、脳、心臓まで再生することができ、様々な再生能力を持っているため、100年以上も研究対象として注目されています。
再生能力をひも解くために重要なゲノム
メキシコサラマンダーがなぜ上記のような高い再生能力を持っているのか明らかにするには、DNAに含まれるすべての遺伝情報であるゲノムの解読が必要不可欠です。高い再生能力を持つ生物は共通の特徴として巨大なゲノムを持ちます。人のゲノムは約30億の塩基対から成っているのに対し、イモリは200億の塩基対、メキシコサラマンダーに関しては、320億もの塩基対によって構成されています。長年に渡り、そのゲノムの解読が試みられてきました。しかしこのような巨大なゲノムは、多くの繰り返し配列を持っていたり、遺伝子など特定の配列がゲノムを突き止めることが困難であったりと、かつてはその解読が困難であるとされていました。
しかし、ここ数年の技術の進歩により、大きなゲノムの解読も徐々に可能になってきました。2007年には、メキシコサラマンダーの再生を可能にしている遺伝子「TGF-beta 1」が発表され、昨年2月にドイツの研究所の研究者たちによって解読されたメキシコサラマンダーの全ゲノムがNature誌で発表されました。
このゲノム配列の分析が今後なされていくでしょう。多くの生物において重要な働きを持ち、人間においては、眼や耳、顔などを発生させる遺伝子「Pax 3」がメキシコサラマンダーには見られなく、筋肉の成長などを可能にする「Pax 7」が変異してその役割も担っているなどの特徴が現時点でわかっています。
メキシコサラマンダーなどの再生能力の研究は今後どんな可能性があるの?
メキシコサラマンダーを始め、再生能力の高い生物には、現時点で多くの可能性が見出され、検証されています。例えば、TGF-beta 1遺伝子は人間にもありますが、メキシコサラマンダーのように手足に再生するよう指示するのではなく、傷を治癒するよう指示します。もし、この遺伝子を操作できれば、手足などの再生や脊髄損傷、重度の火傷の治療などが可能になるかもしれません。
また、再生能力の高いメキシコサラマンダーやイモリの再生組織はがん細胞と似ている点が多いにも限らず、彼らががんを発症する可能性がとても低いことから、再生された組織環境がどのように細胞をコントロールしているか研究することで、人間のがん細胞の周囲の環境をがん細胞に侵されないようコントロールできる可能性が考えられています。組織環境だけでなく、彼らの発がん物質に対する反応も興味深いものです。ある実験では、500匹のイモリの腕に発がん物質であるコールタールなどを注入したところ、腫瘍ができたのはたった2匹で、残りのほとんどは代わりの腕を生やすという反応を示したそうです。発がん物質に対してどうしてこのような反応を示すのかを理解できれば、がん治療の研究に大きな影響を与えるでしょう。
多くの可能性を秘めたメキシコサラマンダーに今後も注目です!