ブームを迎えているメキシコ観光業界
メキシコ観光局は、国連世界観光機関(UNWTO)によって発表される「世界で最も観光客が訪れる国ランキング2017」において第6位にランクインしたことを発表しました。メキシコは2012年には同ランキング15位でしたが、大幅に順位を上げる結果となりました。ちなみに日本は2017年には12位にランクインしています。
メキシコはカンクン、メキシコシティ、グアナファト、ロスカボスなど多くの観光地を有し、特にアメリカ人の間で最も人気な旅行先となっています。その他にもイギリス、スペイン、フランスなどヨーロッパ各国から多くの観光客が訪れています。
観光産業はメキシコで3番目に大きな外資獲得源で、国内総生産(GDP)や雇用の創出に大きく貢献しています。また、メキシコ観光産業の年間成長率は国全体の経済成長率を上回っているため、観光産業がメキシコ経済を牽引していると言っても過言ではありません。
一時は立ち込めた暗雲
今となっては観光業によって安定的な収益をあげているメキシコですが、一時は暗雲が立ち込めました。その原因はズバリ「治安悪化」です。2016年以降のペソ安を追い風に、観光業界は主にアメリカ人観光客の増加を見込んでいたものの、現実はそうはいきませんでした。
ロスカボスやカンクンなど有数の観光地で観光客が巻き込まれる犯罪・暴力事件が頻発したことから、2017年8月22日にアメリカ国務省はメキシコへの渡航に警戒を呼びかけました。これが最大の打撃となり、ロスカボスでは合計3万5000件のホテルのキャンセルが発生しました。警告が出されてしまうと保険会社もその地域を保険適用外とするため、リゾート地におけるイベントや会合の開催も難しくなってしまいました。
それでは、メキシコはどのようにしてその問題を乗り越え、観光産業において発展を遂げたのでしょうか。そこには3つの秘密がありました。
【秘密1】エアラインの拡充
メキシコ政府が多くの資金を費やして取り組んだのが「メキシコの玄関口の充実」でした。毎年北米からビーチを求めて多くの人が訪れるカンクンの空港では。2018年に新ターミナルがオープンしました。これに伴って便数も拡充し、従来+900万人の観光客に対応ができるようになりました。
その他にも空港路線の拡充に力を入れています。路線のネットワーク強化はもちろん、最先端のテクノロジーを駆使した複数のターミナルを拡張建設し、国内線は41%、国際線は28%の拡充に成功しました。今後も観光客増加を見込む各都市で、空港の拡張工事が行われる予定です。
対日本も例外ではありません。日本はメキシコにとってアジア市場最大のターゲットで、大きな成長ポテンシャルを持っているのです。日本とメキシコをつなぐ全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)、そしてアエロメヒコの主要航空会社3社が乗客収容数を増加しました。
【秘密2】官民の枠を超えた連携
メキシコの観光客増加は、メキシコ政府観光省、メキシコ観光局、そして観光業界の共同努力の賜物といえます。まさに「官民連携」で、さまざまな施策が行われました。観光業界の一般企業だけではなく、国をあげて観光業をメキシコの代表的な産業にしようと試みたのです。
代表的な施策といえば、メキシコ国家観光振興基金(FONATUR)を設立したことです。さらにメキシコ政府は観光業の成長を促すため、インフラ改善の公共支出を確約し、観光部門とつながりのある様々な分野での外国投資を増やす取り組みを行いました。メキシコでのいわゆる「観光体験」を向上させるようなインフラを整備すべく、外国直接投資(FDI)を誘致したのです。
航空会社、ホテル、観光業界の緊密な関係構築も成されました。メキシコへの観光客の流入が増えるにつれ、旅行代理店や医療・旅行保険会社、ホスピタリティ業界、英語学校などへの投資も増加し、相乗効果が生まれました。メキシコの観光業を支える多くの施設やサービスが、訪れてくれる人々にただ「旅行」を楽しむだけでなく、そこで学び、成長し、活躍するような機会や場を提供したいとの思いを持って働いています。
【秘密3】治安対策
前述のように3万5000件のホテルのキャンセルが発生したロスカボスでは、治安悪化による大きな損害を取り戻すべく、多額の資金を注ぎ込んで治安回復に努めました。地元当局、ホテル、リゾート施設、そして空港運営会社が一体となり、約5000万ドルを費やして監視カメラを増設したり、治安当局を設置したりしました。
しかし治安に関してはまだまだ予断を許さない状況です。2017年のメキシコにおける殺人事件発生件数は前年比26.9%増で、1997年以降最多を記録しました。この問題に関しては、昨年新たに誕生したアムロ大統領の治安改善に対する姿勢や、メキシコ政府が犯罪と麻薬取引撲滅のためにアメリカとどれだけ協力する意志があるかが鍵となっています。
まとめ
以上のように、メキシコ観光産業成長の背景にはエアラインの拡充、官民の枠を超えた連携、そして治安対策がありました。日本は観光地として治安の面であまり大きな心配はありませんが、連日報道されているように世界各地でテロが発生している中、東京五輪に向けて万全の治安対策は必要不可欠です。さらに東京五輪後も東京が世界有数の観光地として名を馳せ続けるためには、官民の枠を超えて連携し、東京の魅力を発信していくことが大切なのではないでしょうか。観光産業の視点から見た日本の将来を、皆さんもぜひ考えてみてください。