「NiNi」とは
勉強もせず、仕事もせずといった日本で言うところの「ニート」が、実はメキシコでも社会問題となっています。メキシコでは2010年ごろに「Generación NiNi(NiNi世代)」という言葉が生まれました。NiNiとは「Ni estudian, Ni trabajan(勉強していない、働いてもいない)」というフレーズの略です。このワードはメキシコにとどまらず、今やスペインなど他のスペイン語圏でも用いられるようになっています。
メキシコの「NiNi」に多いのは都市部在住の18歳から24歳の若者たちで、その多くは高校を卒業していません。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、メキシコでは18歳から24歳の人口のうち22%が「NiNi」となっています。これはOECDに加盟している35カ国の中で5番目に高い割合で、平均の15%を大きく上回っています。メキシコでは家庭の貧困、家庭内暴力、親のネグレクトなど様々な要因から学校に通うことを諦め、生き延びるためにインフォーマルセクターに従事することを選ぶ若者が多いのです。
インフォーマルセクターとは…
経済活動が行われている場合に、その経済活動が行政の指導の下で行われておらず、国家の統計や記録に含まれていないようなものをいう。これは発展途上国においての経済活動で多く見られる形式であり、貧民とされる者によって行われている。農村に住んでいた者が職を求めて都市部に移住した場合に、インフォーマルセクターという形式で働き生計を立てている場合が多い。インフォーマルセクターとされるような仕事は、店舗を持たずに路上で商売を行ったり、行商を行ったり、再生資源となるようなゴミを集めるなどといった形であり、従事している者はこれらで生活のための収入を稼いでいる。<br>
しかし高校をドロップアウトした若者たちは定職に就くのに十分な職能を持ち合わせていないため、一度職を失うと再び職を得ることも学校に戻ることもできず、「NiNi」になってしまうのです。
「NiNi」男女の違いは?
前述のようにメキシコの18歳から24歳の若者のうち22%を占める「NiNi」ですが、その大多数は女性です。女性が「NiNi」になってしまう主な理由として、成人年齢に到達する以前の望まない結婚や、10代のうちの妊娠などが挙げられます。若くして親になった男女は学校に通えなくなり、男性(夫)はなんとか職を見つけて働くものの、女性は結果的に「NiNi」となってしまう可能性が高いのです。女性は出産後も仕事を見つけることができず、養ってくれていたパートナーとの別れなどを経て、最悪の場合親子揃って路上暮らしに陥ってしまう事例もあります。
男性にも男性ならではの懸念があります。メキシコにおける男性「NiNi」の家族が一番心配しているのは、職能を持たずに育った末にマフィアにスカウトされるんじゃないか、麻薬の売人にでもなるんじゃないかということです。このような犯罪や暴力に巻き込まれる危険性があることには、メキシコならではの社会的な背景も垣間見られます。現にメキシコの犯罪率は2008年から2013年の間で3倍となっており、「NiNi」の増加と相関関係があると分析されています。
さらにメキシコの男性「NiNi」は他国にも負の影響を及ぼしています。なんとメキシコにおける「NiNi」の増加が、ホンジュラス、グアテマラ、パナマ、エルサルバドルなど他の中米各国での暴力犯罪を加速させているのです。
政府の動き
深刻化する「NiNi」の問題を改善すべく、政府が動き出しました。メキシコの労働社会福祉省(STPS=Secretaría del Trabajo y Previsión Social)は2019年1月10日、未就学・未就労の若者の就労を支援する「未来を建設する若者」プログラム(Tutorial Jóvenes Construyendo el Futro)の指針を官報公示しました。これは貧困層の若者が麻薬などの犯罪組織に流入するのを防ぐことを目的としています。若者が就労経験を通して自身の適性ややりたいことを理解し、その後のキャリアに活かすことが期待されています。
最長12カ月の事業所内研修を伴う就労プログラムで、18〜29歳の若者に対して月額3600ペソ(約2万880円、1ペソ=約5.8円)の奨励金が支給されます。全国32州で展開するため地域の制限はありません。申請時点で就学、もしくは就労していない人がプログラムの対象となります。
STPSの公式HPより求職者、事業所ともに登録が可能です。支給される奨励金は若者に直接支給されるため、企業に支給されることはありません。企業が奨励金を着服して、若者の元に届かないといった事態を防ぐことができます。このプログラムの企業にとってのメリットとして、離職率が高い地域での単純労働力を安定的に確保できることが挙げられます。勤務先は複数登録された企業の中から、就労希望者が自ら選ぶことができます。
以下がこのプログラムの公式HPです。興味がある方はぜひ見てみてください。
STPS公式HPはこちらまとめ
メキシコで社会問題化している「NiNi」。日本のニートとはまた違った背景や懸念を知ることができたのではないでしょうか。政府の政策が果たして効果を発揮するのか、今後の展開にも注目が必要です!