特集

ジャーナリスト工藤律子「ストリートチルドレンを通して見るメキシコ」

大学でスペイン語を学び、それ以降ジャーナリストとしてメキシコ及び外国の貧困やストリートチルドレンに関して発信を続けるジャーナリスト・工藤律子さん。今回はそんな彼女がストリートチルドレンを通して見るメキシコの実態、そして私たち日本人がすべきことを語りました。

〈岩波ジュニア新書『ストリートチルドレン』にも登場するカルロス少年と。〉

本に出てきた地名を頼りに、スラム街を訪ねた学生時代

大阪府に生まれ、大学進学のおよそ1年前に父の仕事で東京にやってきました。高校時代にラテンアメリカ出身の友人ができたことをきっかけに中南米の国々に関心を持ち、大学でスペイン語を学ぼうと決めました。国費で中南米の国々に留学できる制度がある大学を探し、東京外国語大学に進学しました。

大学3年生の時に、日墨の交換留学制度を利用してメキシコに1年間留学しました。日本にいた頃に読んだ本がきっかけで、メキシコシティの貧困層やスラム街に関して研究しようと決めていました。スラム街といえば一般的には「危険」「問題だらけ」というイメージが強いですが、その本の中では「都市部のスラム街とは、仕事も住む場所もない農村部の貧困層が生活を改善するため、自分たちの手で作った住処。スラム街は問題じゃなくて解決策。」と書いてありました。その真偽を自らの目で確かめたいと思い、研究を始めました。

〈バスを降りた目の前にあった店を経営する家族とともに。(Nezahualcóyotl)〉

メキシコシティでは語学学校に通う傍、空き時間を利用してスラム街を訪れました。日本で読んだ本の中に出てきた地名を頼りに地下鉄で終点まで行き、バスに乗り換え「この辺りかな」と思ったところでバスを降りました。降りた所の目の前にあった店のおじさんやその家族と仲良くなり、コミュニティに入っていくことができました。

「Colonia 2 de Octubre」の人々の暮らしを、日本人にも伝えたい

大学卒業後は大学院に進学し、長期休みのたびにメキシコシティを訪れて研究を続けました。幸いなことに留学中に様々な専門家やスラム街の人々とコネクションができていたため、彼らと再会していろんな話を聞くことができました。

中でも私がフリーランスのジャーナリストになるきっかけとなったのが、メキシコシティの南西部のAjuscoある「Colonia 2 de Octubre」というスラムに暮らす人々との出会いでした。彼らは自分たちの力で生活を変えようと、住民組織を作ってみんなで力を合わせて活動していました。リーダーのマヌエたちとは現在も交流があります。日本人から見ると「よくこんなところで生活しているな」と感じる環境かもしれないけれど、私にとっては日本社会よりもそこにいる方が人間味があり楽しくて居心地が良かったのです。

〈Colonia 2 de Octubreの女性たちと、住宅の自力建設作業の合間に。〉

彼らは、決してお金持ちになりたくて行動しているわけではありません。貧しい人々は、政治家など力のある他人に頼ってしまいがちですが、「Colonia 2 de Octubre」の人々は違う。自分たちの力で、自分たちの生活をよくすることが可能だと信じて行動していました。本当の意味で、力のある市民だと感じました。

そんな彼らの生活を日本の人々に知ってもらうために、私はジャーナリストになりました。日本で暮らす人々は毎日仕事や勉強に追われ、あまり楽しそうでないところが目につきます。一方で、日本人から見ると苦しく辛いはずの環境でも、自由に楽しく逞しく生きている人々がいるという事実を、日本人はもっと考えるべきだと思いました。そんな思いで、大学院生の時から雑誌に記事を寄稿し始めました。

世界にはまだ、路上で暮らす子どもたちがいる

〈1990年、東バスターミナルをねぐらにしていた少年たちと。〉

都市部の貧困層の中でもストリートチルドレンに焦点を当てて取材をし始めたのは、1990年のことです。日本の小さな印刷会社の社長が声をかけてくれたのが、きっかけでした。彼は幼い頃、戦後間もない日本で戦争孤児が路上生活を送る様子を目の当たりにしていました。世界のストリートチルドレンが社会問題として取り上げられるようになった1990年頃、彼は「世界にはまだ路上で暮らす子どもが存在するのか」と衝撃を受けたそうです。

そこで、世界のストリートチルドレンの現状を日本に伝えたいと、フォトジャーナリストである篠田とジャーナリストである私に声をかけてくださいました。私たちは「ぜひやりましょう!」と、1990年に取材を開始し、1993年に「ストリートチルドレンを考える会」を設立しました。

路上という居場所さえ失いつつあるストリートチルドレン

メキシコシティのストリートチルドレンを取材し続けて約30年、大きな変化を感じます。子どもたち自身が変化しているというよりも、社会環境が変化しているのです。当初は都市部の広場やバスターミナル、公園など、様々な場所でストリートチルドレンが生活しており、良くも悪しくも社会がそれをある程度、容認していました。子どもたちは居場所があるぶん、いまほど追い詰められていませんでした。シンナーや麻薬なども現在ほどは蔓延していませんでした。少しでも手を差し伸べれば、保護施設に入ったり家庭に戻ったりして、路上生活を抜け出せる子どもが、わりといたのです。

〈街中の広場で眠る子どもたち。〉

しかし時が経つにつれ、子どもたちは社会から冷たい扱いを受けるようになりました。政治家らが、「あんな子どもたちが街中にいるのは良くない」と言い出し、酷い例だと警察が子どもを無理やりパトカーに乗せて街外れに置き去りにするなんてこともありました。今でこそメキシコシティの中心街は綺麗に整備され、観光客や家族連れで賑わっていますが、これは30年前には考えられない光景でした。当時は毛布にくるまって眠る子どもたちがそこら中にいました。しかし現在はそれができなくなっているのです。

街中でストリートチルドレンを見かける機会が減ったため、問題が解決したと思われがちですが、そうではありません。減っているのではなく、路上で目にする人数が減っているだけなのです。家庭内で虐待に遭い家を飛び出しても、子どもたちは路上に出るのではなく、それ以外のより危険な場所に取り込まれてしまっています。カルテルとまではいかないまでも、薬物の売買を行なっている犯罪集団に引き入れられることもしばしば。親に暴力を振るわれ家出をしても、身近なところに信頼できる大人がおらず、路上に居場所を見出すこともできなくなった彼らは、より追い詰められています。

問題の本質を考え、メキシコ社会との壁を超えて欲しい

この問題をただ「子どもが路上生活をしているという問題」と認識するのでは、理解は深まりません。その根っこの部分や社会的背景を見る必要があります。視野を広げて、どうしてメキシコではストリートチルドレンになる子どもがいるのか、どうして家庭を飛び出してくるのか、社会は彼らをどう見ているのか、日本の子どもたちとどう違うのか、といったところまで考えなければ、問題を根本的に解決することはできません。

メキシコで暮らす日本人の皆さん。同じメキシコで生活しているはずなのに、自分たちの暮らしと一般のメキシコ人の暮らしがなぜ違うのか、どう違うのか、いまのままでいいのかなど、ぜひいろいろ考えてみてください。メキシコで暮らす大半の日本人の生活環境と、大半のメキシコ人の生活環境は、想像以上に大きく異なります。その壁を認識し、自らぶち破るような日本人が出てきて欲しいと思います。

〈スタディツアーで、地下鉄駅付近の路上で暮らす子どもたちと話す。〉

日本で暮らす日本人の皆さん、是非一度メキシコに足を運び、ストリートチルドレンと出会ってください。読んだ本の地名を頼りにいきなりスラム街を訪れてくださいとは言いませんが(笑)、しっかりと案内人をたてたスタディツアーを活用するなどして、はじめの一歩を踏み出してもらえればと思います。私たちが実施しているツアーには、いつも学生、社会人、様々なバックグラウンドを持った人に参加してもらいたいと思っています。

日本人は自分が与えられている、もしくは作り上げてきた環境をあまりにも「当たり前」と捉えすぎています。自分と異なる、直接関係のない存在に対して無関心で、「触れたくない」「面倒臭い」と思いがちです。が、それではこの先の世界は生きていけません。自分とは違う生き方をしている人々、させられている人々のことを考える余裕を持ちましょう。そして自分と彼らとの間にある壁を壊していってください。その先にこそ、誰もが幸せに生きられる、すてきな未来があると思います。

〈スタディツアーで訪ねたデイセンターに通う子どもたちと、サッカー。〉

写真提供:フォトジャーナリスト 篠田有史さん(2枚目以外)

お知らせ

ストリートチルドレンを考える会HP

・「フィリピン・ストリートチルドレンと出会う旅」

 2020年3月2日(月)~9日(月)。現在参加者募集中。

・「メキシコ・ストリートチルドレンと出会う旅」

 毎年8月下旬〜9月上旬開催(申し込み開始時期:5月後半)

*ツアー日程や費用は随時HPにアップされますのでご確認ください。

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著者情報

紹介文: 大学3年生を終えたところで休学し、現在エンカウンターでインターン中です!半年間は世界遺産の街・グアナファトで暮らし、現在はメキシコシティ在住。季節によって、日によって、時間によってくるくると表情を変えるメキシコの魅力を、余すことなくお伝えしていきたいです!

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