2020/01/30

メキシコ製チューインガム、世界をひっくり返す

Chiczaという、キンタナローにあるオーガニック・ガムブランドがある。メキシコのガム産業を建て直し、今では1500人以上の生産者を雇用し、36カ国で販売を行っているのがそのChiczaである。(メキシコ新聞:フランク・ベラスケス)

1970年代と1990年代初頭、国際市場における天然ゴムの需要が下がったためにメキシコのガム産業は衰退していた。そんな中で同産業を救ったのがManuel Aldrete Terrazasだ。彼はキンタナロー、カンペチェでのガムの原料の生産者達と団結し協会を立ち上げ、生産を増やし地域の経済の活性化を促進するようなブランドを作ることを目指した。そのブランドこそが、生物分解性で自然のものを使用したメキシコのチューインガムのブランド、Chiczaである。ガムには合成樹脂や溶剤、添加物そして人工香料が一切使われていない。1500人の地域の生産者たちの手によってサポジラの木から抽出された樹液など、植物性の材料を使用した商品で、今日市場を独占している化学合成製品に戦いを挑んでいる。Chiczaは特許許可済みの製造法と、標準化されたプロセスに従いガムの生産をしている。同プロセスは、樹液を作る能力のある丈夫で傷んでいない木の選定から始まり、樹液を煮詰める過程を経て自然香料と混ぜ、ガムの原型であるかたまりを作るためマシンに通し最後に板状に加工、という流れで行われる。サポジラの木の寿命は最低500年だ。4〜6年間の回復期間を挟めば、約100年間ほど樹脂を作ることができる。「ただ単に樹皮の表面にひっかき傷をつけるだけだから、木は傷つかないんです。」とManuelは語る。Chiczaは1年で200トンものチューインガムを生産している。生産されたガムは4つづつパッケージに入れられ(重さは15g,30gのいづれか)、36カ国の食料品店を通して販売されている。

では、一体どのようにして会社を建て直したのだろうか。ガム産業再活性化のヒントを追い求める風潮の中、1997年に全ては始まった。当時彼は社会的企業(社会問題の解決を目的として収益事業に取り組む事業)のコンサルタント業をしていたのだが、そこでマヌエルはガム産業についての分析を依頼された。彼のプランは、地域の生産者たちや他の事業者らと結びつき、樹液を生産しそれをチューインガムとして加工し世界中で売り続けるのを可能にするための経済基盤を持ち合わせた組織体を作ることだった。

そのような流れで、2003年にConsorcio Chiclero (ガムコンソーシアム)が生まれた。樹液をチューインガムにする加工業者など、加工、流通、販売を簡易的にする働き手なども持ち合わせた社会的企業である。Chiczaはお菓子のコマーシャルブランドで、Chicza Rainforestはイギリスに置かれた販売拠点だ。

パーソナリティを持つということ

Manuelはガム生産者を持つ家系に生まれたにも関わらず(祖父と父が生産者だった)、ガム産業については何も知らなかった。そんなマヌエルの長い調査を経て、2008年にChiczaは生まれた。「どうやったらチューインガムができるかも知らなかったんですが、製造工程を調べるようになったり、ビジネスにおいてキーとなる人物達を探し始めるようになりました」とマヌエルは回想しながら語る。

2008年、Consejo Mundial de Cambio Climático (世界気候会議)に出席したManuelは世界銀行の助けを借りてChiczaを設立。チーム一丸となり、原料からパッケージデザインまでにおいて、商品の持つ特徴とマヤの密林の良さを全面に打ち出し、ブランドに一種のパーソナリティを与えるという彼の当時の戦略は市場を勝ち取った。「グローバル化の進む世界で競争するために、独自のアイデンティティーを持つことは絶対的な強みになります」とManuelは断言する。

現在の主要マーケットはヨーロッパだ。次いでカナダとメキシコが並び、最近はアメリカにも及んでいる。さらにChiczaは、Manuelが地球にとって欠かせない上に世界で最も重要な生態系の一部だとするマヤの密林のうち、今までに4000ヘクタール以上の植林をしてきた。

国境を超えての販売をするため、主にフェイスブックなどSNS上でのプロモーションと拡散に力を入れたのは、ある理由からだ。Chiczaを最も消費するのは18〜40歳の層で、彼らがよく使うのがそういったプラットフォームというわけだ。

最近Chiczaはあるキャンペーンを始めた。同ブランドのガムを食べると、"世界で唯一ガムの原料の樹液がとれる"メキシコの森林の回復、そして原住民コミュニティーへの貢献ができること、ガムは石油フリーの自然のものを使った製品であることを多くの人に知ってもらうのが目的だ。

他の戦略として、BioFachという世界で1番大きいオーガニック製品の展示会やシンガポールで開かれる数々の展示会等、様々な国の市場における新しい製品の進出を促進するような場でプロモーションをするといったこともしている。

Manuelは起業家達に対し、「ターゲット層がどこなのかを探し、消費習慣と各国の文化に従ってそれぞれ戦略を練ることで簡単に参入できる」と語りかけている。

夢を見る勇気

Chiczaの定める主なゴールの1つは生産者たちも一緒になってチューインガムの生産から商品化までの手綱を握る事で、会社をマキアドーラ(外国資本の製品の組み立てを行う下請け工場)には興味はなかった、と社会学と経済学の知識を持つ起業家であるManuelは言う。

自力でビジネスを発展させることを目的に、ガムベースだけを買いたがった韓国人たちもいたという。Manuelは「会社を成長させたいなら、最初から最後まで一緒に全部やらなきゃいけないでしょうよ」と語る。

彼は、ビジネスで成功するためにはリスクの存在を当然のように受け入れるのがとても重要だと心底信じている。実際に彼はいつもそうしてきた。というのも、彼がビジネスを始めたのはTrident, CloretsやBubbalooといったメキシコでも販売されるガムのブランドを所有するモンテリテーズ・インターナショナルに独占されている部門であったし、ガム産業は市場で二番目に参入の多い菓子類においてのカテゴリーだ。さらに、メキシコは世界で2番目にガムが消費される国で、市場調査会社のNielsenの計算によると一人あたり年に平均0.21kgのガムを食べていることになる。

Manuelはこの業界における大きな成長可能性を見出している。しかし同時に、製造過程の改善、ビジネスのやり方、そして市場の論理においてプロフェッショナルにならなければいけないとも忠告している。

お菓子産業に存在するビジネスチャンスの1つに、今よりも健康的な生活スタイルを提供する製品やサービスを生み出すことが挙げられる。だか、利益を生み出しつつビジネスを存続させられるような革新的な価格設定をすることが課題だと、Asociación Nací deFabricantes de Chocolates, Dulces y Similares A.C. (Aschoco)のAlicia Páramoは指摘する。

近年、3000万円以上の投資をすることで(そのうち30%前後はSecretaria de Economía y laComisión Nacional Foresral, 通称Conaforなどの機関を通じた連邦政府からの支援)Chiczaの市場における地位の確立はもう達成した。現在は独自の資産とクレジット予算制約線、そして州からの補助金で会社を運用し、プロジェクトを発展させている。

Chiczaは2回、Biofachでの斬新な商品で賞を勝ち取り、またイタリアとオランダでOroecológico(環境に優しい金)を与えられた。さらに近年は、フェイスブックの起業家賞・新人起業家部門においてセミファイナリストになった。未来におけるプランのなかで、中国への進出と米国においての認知度向上がある。

Manuelは、生産工場へのソーラーパネル導入のため1000万メキシコペソを投じ、Programa de Inversión Forestal (FIP), 世界銀行とBanamexの支援とともに、医薬品グレードの基準を満たすために工場を密閉することを進めている。

これではまだ終わらない。なぜなら、Chiczaはすでに新しい製品の生産、販売の準備段階に入っているからだ。例えば、ワイルドペッパーや、ラモンの木のお茶だ。ラモンの木は密林で育ち、家畜や人間の食料の基盤としての使用可能性が期待できる。「美味しい食料品たちで、市場を飲み込んでみせます。」

1. サポジラの木の選定。丈夫で樹液を作れるものを選びます。

2. ジグザグに樹皮の表面を切って、24時間の間樹液を出させます。

3. 過分量の水を出すために、4時間樹液を煮詰めます。

4. ガムの原型となる固まりをつくり、純化してChiczaの工場に移します。

5. 香料を混ぜ、板状にしてパッケージに包みます。

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著者情報

紹介文: グアナフアト州に住む日本人向けに日本語の記事を出しているメキシコ新聞です。 詳しい記事はこちら。 http://www.shimbun.mx/

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