【メキシコの物価上昇率は2022年6月前半時点で7.88%に!】
メキシコの地理・資源・人口・経済などに関する統計情報を提供する国立統計地理情報院(INEGI)が発表した最新のデータに基づくと、メキシコ全国のインフレ信号は「赤信号」に設定され、年間インフレ率は7.88%に到達しました。
これは2001年に記録した年間最上昇インフレ率8.96%に次ぐ高さで、継続して物価が上昇しているメキシコにおいても、20年間で最も高い水準となります。
実際にメキシコで生活していると身をもってこの物価の上昇を実感します。読者の中には共感される方も多いのではないでしょうか?
長年デフレが続く日本においても2022年に入り、コロナ禍、そしてロシアのウクライナ侵攻の影響からガソリン価格や食料品価格の値上げが始まっていますが、2022年上半期までの日本の物価上昇率は2.5%と世界各国と比べるとかなり低い傾向にあります。(※国際通貨基金(IMF)が発表した国際平均の物価上昇率は7.4%と世界的に異常なインフレ)
【インフレとは】
メキシコだけでなく世界のインフレを語るうえで、簡単にインフレについておさらいしてみましょう。
インフレとは全体的な物価水準が持続的に上昇する状態を指します。一般的に経済成長は適度なインフレ率の上昇を伴います。コロナパンデミックの最中からアフターコロナ後に向けて各国が経済活動復活、成長復活を目指す際に起こるインフレはある意味仕方のないことと言えます。
しかし、今回のインフレは必ずしも「経済成長に伴って」というわけではなさそうです。
通常は景気循環の拡大によって、需要が財の供給を上回り、生産者にとっては製品価格を引き上げるチャンスとなりますが、今回に限ってはロシアのウクライナ侵攻の影響での原材料費の高騰やコロナパンデミックによる人員不足による人件費の高騰、金融政策の行方による為替差などが大きな原因となっているようです。
コロナ禍で失った経済成長を完全に回復することがないまま物価上昇が起こるということは、通常の経済成長に伴うインフレに比べると実生活に相当なマイナス影響が及ぼされます。
物価の上昇は私達の生活に深く関わる問題で、特に貧困層が多いといわれているメキシコにおいては深刻な課題となっているのは間違いありません。
続いて、メキシコにおける物価上昇を紹介します。今回は光熱費に関わるエネルギー関連の物価と毎日の生活に直結する食料品の物価について調査してみました。
【エネルギー物価の上昇】
まずはエネルギー関連の物価上昇を見てみます。
電気料金は2022年6月前半は前の月に比べ10.64%!と高く、2022年12月は2021年に比べ約7%上昇すると予想されています。調査によるとメキシコの一般的な家庭で2021年約130ペソ(日本円で約860.5円)だった電気料金が2022年6月時点では約145ペソ(日本円で約959.5円)、2022年の年末には約155ペソ(日本円で約1025.5円)程度までになると予測されています。これについて連邦電力局(CFE)は「値上げをしたのではなく、コロナ禍で据え置きしていた料金を調整した」と述べていますが、今後も上がり続けるかもしれない電気料金に国民は恐怖さえ覚えています。
ちなみに、日本の電気料金の物価上昇率は18.6%で、一般的な4人家族の電気料金は月10,000円程度から2022年6月には約12,000円とこちらも価格は上がっています。
ロペス・オブラドールメキシコ大統領は
「CFEに対して電気料金が上昇しないように迅速に救済措置を探す」と発表しました。
また、「世界的な原油価格高騰の中でメキシコ政府はガソリン価格の高騰をなんとか抑えている。
同じ様に電気料金についても政府からの救済や投資を行うことでコントロールできるだろう。これはガソリン会社や電気会社の為ではなく、メキシコ全国民の為に行う必要がある。」と付け加えています。
その、ガソリンは2022年6月現在では日本ではレギュラーにあたるMagna(マグナ)が1リットル当たり21.73ペソ(日本円で約145.5円)、ハイオクにあたるPremium(プレミアム)が1リットル当たり24.62ペソ(日本円で約163円)となっています。これをみると、年次変動では7.22%と5月よりも年率が高くなっていますが、たしかに諸外国の価格高騰に比べれば抑えられていると言えます。これは先述のオブラドール大統領の声明通り、メキシコ政府がガソリン税に対しての救済措置を実施しているからで、救済措置がない場合は1リットル当たりMagnaが約34.14ペソ(日本円で約229円)、Premiumが約37.24ペソ(日本円で約246円)と前年度に比べ実に57%も上昇しています。
また、メキシコの家庭で一般的に使用されているLPガス2022年6月現在1㎏24ペソで、州によっての違いはありますが、全国平均では−1.5%で前期よりも低くなっています。
【食料品物価の上昇】
巷では「トルティーヤが$30ペソ(キロ)になった!」「アボガドが倍以上も値上げされた!」と身近に感じる物価上昇に今後のメキシコ経済の動向が気になる読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
トルティーヤが1㎏ $30ペソというのはメキシコ人や在住歴が長い日本人にとっては天文学的な数字ではないでしょうか? つい数年前に1kg$10台になった際に大騒ぎになっていたのを思い出します。
2022年6月前半期の食料品における物価上昇率は14.07%と驚異的なインフレとなっています。特に前述したメキシコ家庭に欠かせないトルティーヤは$30ペソ(キロ)と前年に比べ14.57%も上昇し生活を圧迫しています。「それならパンを食べよう!」といっても、小麦粉は27.65%増加しました。
これは人口の38.8%が貧困層であるメキシコにおいてとても深刻な問題で、同層に支持者が多いメキシコ大統領は消費促進を目指し主要な食品目の価格上昇を抑えることを目的とした措置を取るように働きかけています。
【メキシコの州別物価上昇率】
メキシコ国内での物価上昇は全国で一律ではなく地域によって違うようです。これは富裕層、中間層、貧困層の分布に大きく関連し以下のようになります。
最も高いのはオアハカ(10.2%)で、カンペチェ(9.6%)、チアパス(9.5%)、モレロス(9.4%)でした。
また、インフレ率が最も低い州は、ケレタロ(6.5%)、メキシコシティ(6.5%)、バハカリフォルニアスル(6.7%)、メヒコ州(6.9%)です。
読者の方がお住まい、訪れる地域はいかがでしょうか?実際に各都市を訪れた際にチェックしてみてください!
【メキシコ人への影響は?】
【タコスを食べる量が減った?】
急激な物価上昇はメキシコの国民食「タコス」にも影響が出ているようです!
タコスの材料のトルティーヤ、アボカド、野菜、そして肉、すべての材料の価格が上がり、直近のタコスの物価上昇率は12%を超えるようです!
コロナ以前からの物価上昇を踏まえ、タコスの価格は平均して一個$2〜$5ペソの値上がりを記録しています。
タコスに関わる全ての原材料費が高騰しているので当然の結果なのですが、その反面人々の所得が同じ様に上がっているわけではないので深刻な問題に発展しています。
原材料の価格高騰に影響してタコスが値上がりしたので、メキシコ人が一週間に食べるタコスの量を減らしているというレポートがあるようです。
新聞社が行った、メキシコシティのタコス屋台へのインタビューでは
「すべての材料の価格が高騰した、特にトルティーヤの価格が。でもトルティーヤは未だに2枚にしている。 値上げしてね。(注:メキシコでタコスを注文するとトルティーヤ2枚で提供される)」とタコスのクオリティーは保ちつつ値上げを実施しているそうです。
それに伴って、消費者側のインタービューで最も多かったのは
「以前は一度に8個食べていたタコスを、今では5個しか食べない」という回答でした。
なんとも信じがたい事が起きていますね!
【物価が上がれど給与は上がらず】
今回のメキシコでのインフレについて身近なメキシコ人にインタビューをしてみると、ほとんどの人が口を揃えて「物価は上がるけれど、給与が上がらないので生活は厳しい」ということでした。
2022年6月時点での最低賃金は1日$172ペソ。仮に、トルティーヤと野菜を買うだけでも1日の給与の3分の1を使うことになります。そこから家賃や光熱費、学費や医療費を支払うとなるとその厳しさは明確です。
メキシコ大統領はインフレに対してこれ以上国民生活が脅かされないためには、最貧困層の購買力が低下しないようにすること、失業率が上がらないこと、国民の生産性を向上させるための投資を増やすことへの明確な計画を立てることが重要と発表しています。