日本産精米がメキシコ輸出解禁!
【日本のお米がメキシコでも食べられる!】
2023年3月16日(メキシコ現地時間)、農林水産省とメキシコ植物検疫当局との間でメキシコ向け日本産精米の植物検疫条件が合意され、日本産精米の輸出が解禁されました。
これにより、日本の高品質な精米がメキシコ国内でも販売されることになり、日本の精米業界にとって新しい市場が開拓されることが期待されます。また、在留日本人を含めたメキシコ国内の消費者にとっても、より多様な選択肢が生まれることになり、日本食への理解や認知が深まるでしょう。
一時帰国の際に日本のお米を購入し、メキシコ入国時にスーツケースに入れたことで没収されたというケースも耳にします。日本精米の輸入は商業貨物対象のみとなっているため、今後も個人での持ち込みは禁止されています。しかし、輸入解禁後は身近に日本産精米を購入できる機会が増えるので、メキシコで購入することができるのは嬉しいですね。現時点(2023年4月)では未だメキシコ国内の飲食店や小売店で日本産精米を目にすることはありませんが、2023年8月ごろから、メキシコ国内の飲食店や小売店でも日本産精米の取り扱いが開始される予定です。
ただし、一般消費者にとって嬉しいニュースである反面、日本産精米を輸出する日本側には、価格面での競争力やブランドイメージの認知度など、市場において広く普及するための課題があるかもしれません。今後、これらの課題を克服するために、日本の精米業界はさらなる努力を重ねることになるでしょう。
様々な面で興味深く重要な今回の合意について今回のamigaでは紹介していきます。
【解禁以前のメキシコでの日本米事情】
これまで、メキシコでは自国への侵入を警戒する病害虫が日本で発生していることを理由に、日本産精米の輸入を禁止していました。
また、メキシコは世界有数の米生産国の一つで、国内需要を賄うために国内でも米を生産し、加えてアメリカや東南アジア、またウルグアイなどからも輸入しています。しかし、そのほとんどは日本ではあまり食べられていない品種であり、アロス・メヒカーナに代表されるトマト味で煮込まれたご飯や、タコスの具やモレに添えられる副菜のような立ち位置で食されています。
一部の高級レストランや日本食レストランではアメリカで生産されたコシヒカリなどの日本品種のお米が使用されていますが、市場にはほとんど出回っていませんし、高価です。主に輸入されているアメリカ産のカリフォルニア米は質も高く日本品種のお米と比べると安価で手に入ることから、日本食レストランなど国内市場の消費者に支持されています。在留の日本人の間でも日本食材店やスーパーで手にするものはこのカリフォルニア産の米が多いのもうなずけます。
しかし、近年の日本食ブームに伴い、富裕層の間では日本産のお米に対する関心が高まり、高級レストランでアメリカで生産された日本品種のお米が使用され始めました。また、日本人の移住者や留学生の増加により、日本産のお米を求める需要も増加しています。
【輸入解禁の背景は?】
日本は、少子高齢化に伴う人口減少により、食の市場規模が縮小傾向にある中で、農林水産業及び食品産業が持続的に発展していくために、農林水産物及び食品の輸出拡大を図っており、その一環として日本産精米のメキシコへの輸出解禁に向け取組を進めてきました。
また、日本の農産物は高品質であることが評価されており、メキシコを含め世界各国で需要があることから、輸出拡大が重要課題の一つとなっています。
また、日本とメキシコが加盟する自由貿易協定である、環太平洋パートナーシップ協定(TPP11)により関税が引き下げられたこと(2023年現在で8%、2027年以降は0%に!)で、より少ないコストで輸入が実現されることも期待されます。
【アメリカ米不足の影響も?】
そして、もう一つの背景として、アメリカの水不足による米の生産量の減少が挙げられます。
2021年の収穫分から、アメリカの主要な米産地であるカリフォルニア州などで長期にわたる干ばつが続き、アメリカ産米の生産量が減少しています。これにより、アメリカ産の米を輸入していたメキシコ市場においても、米の価格が上昇するなどの影響が出ています。
実際に、メキシコの輸入精米市場の6割以上を占める米国産米の1kgあたりの平均輸入価格をみると、2019年には0.7ドルであったものが、2022年には約1.5倍の1.04ドルまで上昇しています。また、アメリカ産に次いで多いウルグアイ産の価格も、2019年の0.56ドルから2022年には0.76ドルへと3.5割増加しているため、今回輸入解禁に至った日本産精米は、品質面のみならず価格面(2022年度の日本国内での小売価格は約200円~300円程度)でも米国産との競争力を持つ可能性があると考えられています。
このような状況下で、農林水産省はメキシコ政府と技術的協議を重ね、メキシコにおいて日本産精米の輸入解禁が実現しました。
JETRO ビジネス短信
【課題は?】
メキシコへの日本産精米輸入解禁には多くのメリットがある一方、現実的に直面する課題も存在するのではないでしょうか?
例えば、輸送コストが高くなる可能性があり、競合する他国産米と比較して想定以上に価格が高くなってしまったり、さらに、メキシコにおける日本産精米の需要が予想よりも低い場合、輸出量が増えないことも懸念されます。これらの課題を乗り越えるためには、両国の企業や政府が協力して戦略を練る必要があります。
【独自のブランディングやマーケティングが必要?!】
先述のように、今回の輸入解禁及び検疫条件の合意には、アメリカ産米輸入量の減少や価格の高騰に対抗するためのメキシコ市場での競争力が期待されます。
しかし、メキシコに輸入されるアメリカ産をはじめとした外国産の米の殆どがメキシコ人の嗜好、使用法に適した米であるということを忘れることはできません。
そのため世界中でも高品質と評価される日本産精米が、そのまま「日本ブランド」として、メキシコ料理用として日常生活に使用されるアメリカ等から輸入米の代替として支持されるかどうかは疑問が残ります。
実際にメキシコ政府は既に輸入国の多角化のために南米パラグアイ産米の輸入も行っています。メキシコ料理に使われる米に類似し馴染みの深いパラグアイ産米が今後のアメリカ産米のシェアを補う可能性もあります。
言い換えると、所謂メキシコ米(メキシコ国内産や輸入されるアメリカ産等、メキシコ国内で消費される米全般)の嗜好性、価格帯、品質等と同じ市場でどのようにしてシェアの獲得を目指すよりも、日本産精米という独自のマーケットを構築、拡大するかを戦略的に考える必要があるのではないでしょうか?
日本産精米のメキシコ輸出解禁は日本が持つ世界一の米生産技術や高品質の米をどうメキシコ市場のニーズに合わせてブランディングしていくかが鍵でしょう。また、日本の高い米生産技術を活かしてメキシコ料理に合う日本米の開発も今後日本の農業が世界市場に進出するために必要になるかもしれません。
【メキシコ人のライフスタイルに合わせた商品開発も】
メキシコ人の主食はトルティーヤ、豆そして米を使うメキシコ料理ですが、メキシコ料理に合う日本米を開発したり、また「冷めて美味しい」といった日本産精米の特徴は経済成長が著しくライフスタイルが変化しつつある昨今のメキシコ人に向けた商品開発に適しているといえます。また、富裕層や食通に特化した高級レストランや日本料理店への販売促進も日本産精米がメキシコで普及するきっかけになります。
メキシコ国内には4名の日本食普及の親善大使がいますし、国内220店舗以上のレストランが日本産食材サポーター店として認定されていたりと、メキシコには日本産食材が普及され、更に注目を浴びるようになってきました。
レオンの人気レストラン Satoのフェリペ氏、日本食普及の親善大使に就任!今回の輸入解禁により、高品質な日本産精米が親善大使、日本産食材サポーター店の協力のもと、メキシコ国内のより多くの方に食してもらうメニュー、商品開発に期待が高まります。
【まとめ】
いかがでしたか? 日本は食文化が世界的に有名です。メキシコに日本産精米が輸入解禁されることによって、在留日本人や日本食が好きなメキシコ人にとっては、今よりも手軽に高品質な日本産のお米が入手できるようになり、ますます食事を楽しむ機会が増えるのではないでしょうか。
和食とメキシコ料理には世界無形文化遺産に登録されているという共通点があり、米をたくさん消費する文化があります。日本産精米の高品質な魅力がメキシコ人に受け入れられることは、日本文化そのものが受け入れられることに繋がると期待しています。
amigaでは今後の動向に注目していきます。