【ストーリー】 建築士・山雄和真さんがメキシコにかける、本当の「豊かさ」とは

一級建築士として活躍され、Casa Futuro Lab.にて未来の暮らしをデザインするチャレンジャー、山雄和真さん。トレーラーハウスプロジェクトで目指すのは、貧しくとも「豊かな」生活空間です。

山雄和真が見るメキシコ社会とは

——メキシコに実際行ってみて、どんなイメージを持たれましたか?

思っていたより、ヨーロッパ社会ですね、人種もそうだし、街の作りとかを見ても、ヒエラルキーがはっきりしています。例えば、大学の人と話していて、インテリ層の人たちが、いかにもインテリ風のきちんとした格好していたりする。キリスト教社会なのもあって、社会の骨格しっかりしていると思います。

——なるほど、メキシコの貧しい労働者を救うためのプロジェクトですが、格差や貧困については気づいたことはありますか。

歴史的に階層がものすごくはっきりしている国なので、日本の高度成長期の「一億総中流」みたいな発想のもと、今貧乏な人たちが、国が発展すればそこそこ金持ちになれるかというと、正直厳しいと思いますね。でも貧しいなりに工夫をすれば「豊かな」暮らしができるようになる、という議論は世界中にあるし、その方がずっとメキシコらしいんじゃないか、と私は思っています。

——次回、またメキシコに行かれるわけですが、楽しみにしているのは…

料理です!ご飯を外で食べるのが大好きなので、タコス屋の屋台いきたいです。屋台文化は世界で一番大事だと思いますよ!でもティファナはやっぱり出歩けないので、それが困りますね。

ティファナのいいところは、国境が見られるところです。国境線上に高度が高い道があって、上から見ると、国境が万里の長城みたいに見えるんですが、そこに行くと、人間の残酷さとか、文明の暴力性を実感できる、本当に面白いスポットです。

——と仰いますと…

まず、本当にきれいにまっすぐです。もっとすごいのが、メキシコ側とアメリカ側で、ラインを境に緑の色が違うこと。アメリカ側は、青々としている。メキシコ側は枯れた荒野。地学的には全く同じ場所なのに。あと、メキシコは住宅が国境にびっしりへばりついている。アメリカ側は数十キロ離れたところからポツポツと家が建っている。アメリカに頼るメキシコと、メキシコから距離を置きたいアメリカの力関係を、明確に表していますよね。

——それはすごい…そもそも、なぜ誘われてメキシコに行こう!と思われたんでしょうか。

その時ちょうど時間があって、あまり行く機会がないので、行ってみようかなと。しかも中南米って建築がすごく面白いんですよ。アルゼンチン、ブラジルの建築が凄く好きです。あっけらかんとしていているんですよ。

——あっけらかん、というのは?笑

暑いから、影が深くて、風通しをよくするために、中と外の境目をはっきりさせない。建物の入り口にドアがないんです。

たとえばこれ、ブラジル人の建築なんですけど、この天井と窓のところ、コンクリートに建具が直接くっついてるんです。密閉するために窓枠を挟むのが普通なんですけど、彼らは雨がはいっても気にしない。笑

——メキシコで通っている大学もこんな感じでした。山雄さんが設計された熊本の小学校も、教室にドア

がなくて、全部廊下が吹き抜けになっていましたね。

そう、そのデザインは、ブラジルの建築の写真を見ながら出てきたイメージです。熊本だし、暑いからぴったりだよね、ってことで。

ドアでしっかり閉じて、建物の中と外がしっかり分けられた建物は、空調で快不快をコントロールする。すごく近代的な考え方です。でもこれって、結局ランニングコストがかかる。僕は、もっと開けていていいんじゃないのと思います。

インタビューを終えて

プロの建築家の方から見た、メキシコと「未来の暮らし」についてお話を伺いました。経済発展に頼らず、手の届く範囲で工夫することで、貧しい人でも豊かに暮らすことができる…という考え方は、新鮮でした。中南米の中と外を区切らない建築、私も賛成です。夏効きすぎている冷房でいつも身体を壊すので…特にメキシコはカラッとしていて、木陰に入ったり風が吹いたりするととても快適。その気候を生かす工夫が、建築にも表れているのでしょうか。この夏、ティファナにどんな開放的で新しい空間が生まれるのか、楽しみです。

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