【ストーリー】建築デザイナーがメキシコでの経験を経て考えた「生き方のデザイン」

「建築は場所を選ばない。だからメキシコに来たんです。」 一級建築士を目指す安藤尚基さん。「デザイン向いてないんじゃない?」と言われた学生時代から、より自由な建築を求めてメキシコに向かったときも、設計事務所で忙しく働く今も、建築に夢中な気持ちは変わらない。すべてが生き生きとしたメキシコで見つけたのは、心に余裕ある「生き方のデザイン」だ。

クリエイティブな学問と思って選んだ建築。実際はとても厳しかった

静岡県の掛川で生まれ、高校までそこで過ごしました。中高をテニス部の活動に明け暮れて、気がついたら勉強嫌いになっていたんです。大学受験を考える時期が来てもやりたい勉強が見つからなかったのですが、小さい頃大工になりたいと言っていたことや、親がエンジニア職だったことから、工学系には親近感があり、その中でも最もクリエイティブな建築というジャンルを選びました。

国公立で建築学科のある大学は少なく、紆余曲折があって、実家から遥か離れた秋田県立大学に行くことになり、そこで厳しくていい先生と出会えました。デザインを見せると「センスない。やめたほうがいいんじゃない?」と、しごかれました(笑)そのうちに成果が出て、学部生では難しいと言われる東京ガス主催の建築のコンペで賞を取ったこともありました。

建築は、ものすごく考える学問。学生時代は哲学を読み漁った

三年生の夏に研究室に配属されてからはとにかく忙しくなりましたが、限られた時間の中で本はたくさん読んでいました。

建築の研究のテーマが「公共空間の作り方」というものだったことをきっかけに「公共とはなんだろう」と考えるようになり、公共哲学というジャンルの哲学を読み漁りました。

哲学は、たくさん読んで考えているうちに積もっている知識が自分の中で繋がっていくのが面白いです。建築は「ものすごく考える」分野なので、哲学の「見落としてしまいがちな次元のものを掘り下げる作業」ってすごく重要なんです。

頭の中の考えの進め方を学ぶのにも役立ちました。特に多方面から影響を受けたのは、ジル・ドゥールーズの哲学。大学院の教授が、ドゥールーズの思想を建築に落とし込む建築家カップル、ライザー=ウメモトの影響を強く受けているので、自分にも少なからず影響があると思います。

就活中、建築の「本質」を探るためにアトリエ事務所を探した

大学院は、若手のいい先生がいる名古屋工業大学に進みました。自分は場所にこだわりがないのかな。大学院に入って1年経たずに就活が始まりました。建築業界は1月とか2月に内定まで決まり、就職先としてはゼネコンの設計部、組織設計事務所、個人建築家のアトリエ事務所の3つがメイン。

はじめは、大きなことができるゼネコンや組織事務所を中心に就活していました。ですが、並行して活動していたニューヨークの建築家(ライザー=ウメモト)との共同プロジェクトを進めるうちに、だんだん彼らの「建築とはなにか」「建築の本質」を考えるような仕事に魅力を感じていき、結局は選択肢の3つ目、アトリエ事務所探しを始めました。

とはいえ、建築にもある種の「流行」があって、今の日本の流行である、白塗りでシンプルでガラス張り、というような建築がしっくりこなかったんです。日本の事務所で行きたいところを決めかねていました。

あっさりと決まったメキシコ行き

そこで海外に目を向けてみると、スペイン・ポルトガル系建築家のものが、自分の好みにしっくり合っていることに気がつきました。

でも、ヨーロッパの事務所は前例がたくさんいるので、せっかく行くなら、サバイバルが大変そうな南米かな?と思って(笑)

あらためて教授に「南米の事務所に行こうかと思っている」と相談をしたら「メキシコならツテがある知り合いがいるよ」と言われ…その事務所のウェブサイトを見せてもらって「いいですね!」となった瞬間、教授がその場でカタカタメールを打ち出して。「いいってよ!」と、話が成立してしまったんです。

まだ迷っていたし他の先輩から打診されていたブラジルの話もあったのですが、そんな感じでメキシコ行きがあっさりと決まりました。

メキシコの建築は、自分の好きなスペイン、ポルトガル風のずっしりしたコンクリートや石の建築の影響が多分にある中で、カラフルな外観に見られるメキシコらしい民族的、土着的な要素が混在しているのが魅力です。メキシコの建築界は成熟していて、例えば当時の「世界中どこでも同じ建築が作れる」という建築界の「モダニズム」の考え方で世界を驚かせた建築家ルイスバラガンは、カラフルな外観の「メキシコらしさ」を押し出した作品が高く評価されています。

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