【ストーリー】建築デザイナーがメキシコでの経験を経て考えた「生き方のデザイン」

「建築は場所を選ばない。だからメキシコに来たんです。」 一級建築士を目指す安藤尚基さん。「デザイン向いてないんじゃない?」と言われた学生時代から、より自由な建築を求めてメキシコに向かったときも、設計事務所で忙しく働く今も、建築に夢中な気持ちは変わらない。すべてが生き生きとしたメキシコで見つけたのは、心に余裕ある「生き方のデザイン」だ。

初めてのメキシコで人脈作り

初めてのメキシコで、紹介を受けたアトリエ事務所の手伝いをしていたとき、「世界中どこでも居場所になる」というコンセプトでシェアハウスのプロジェクトをされている鯉谷ヨシヒロさんと出会いました。

建築も世界中どこでもあるし、どこででもできる。自分が秋田、名古屋、メキシコといろんな場所で建築を学べるのと同じです。場所に縛られず、その時に自分がやりたいと思ったことを、それができる環境でやればいい。鯉谷さんとはそんな考えで意気投合して、今でもお付き合いがあります。

あとは、メキシコで独立している日本人の建築家の方に、政府奨学金制度の日墨戦略的グローバルパートナーシップ研修を紹介してもらい、「もっとメキシコにいたいし、お金に困らなくて済む方が良い」と思い、応募することにしました。

一度日本に帰ってからは、研究室の課題に忙殺されたりしながら修士論文を書き終え、2014年の3月に卒業しました。その後正式に日墨研修が決まってからは、大学院の先生のアシスタントや、岡山のカフェのウッドデッキとひさし作りをしていました。

ありがたいことに以前僕の作った「ひさし」が好評で、今でもよく頼まれます。

アトリエ事務所でのインターン、気ままな仕事の仕方に驚き

2014年の8月から2度目のメキシコ生活が始まります。初めて行った時と同様、実務中心のインターンをするために行きました。この時は、前回とは別のアトリエ事務所に直接面接をしてもらったのですが、こういうアプローチはメキシコならではかもしれません。

事務所での仕事内容は、打ち合わせなどの書類作りや、図面変更の直しなど。開発が進んでいるコンデサ地区のマンションなどの設計を請け負うところで、忙しかったです。ただ、常に身体を壊すほど働く日本の事務所とは仕事の仕方が全然違って、忙しいのに金曜の夕方になるとサッカーを始める気ままさは、カルチャーショックでした。

あと、締め切りとか待ち合わせがうまくいかない苦労もありました。「図面、あとどれくらいでできる?」と聞いて、「あと5分」とか言われても、結局伸びて、2時間後くらいにようやく終わる。そのうちに定時になって「じゃ明日にやろうか」となって、その時間で別のことできたのに!!と思うことはよくありました。そのあたりが許せないと大変ですが、自分の場合は次第に順応していきましたね。

自転車を2度盗まれた!安全に暮らしたいなら自分の行動を変えよう

苦労したのは仕事だけではありません。

メキシコ人は、助けてくれるお節介心に満ちていて、出来ないのになんでも助けてあげると言ってきます(笑)

iPhoneでトラブルがあった時、親戚にエンジニアがいるから直してあげると言われたのに、3ヶ月経ってからやっぱり無理と言われたり。

あと、自転車の盗難に2回遭いました。引っ越した先が治安の悪いところで、一週間開けずに2台(笑)

2回目は、とても頑丈な南京錠を取り付けていたのですが、見事に切られていました。

メキシコでは、安全装置をお金をかけて買うことはできないと考えたほうがいいです。安全に過ごすには自分で行動を変えないといけません。2回目に盗まれてからは、危なそうなところには自転車で行かないようにしていました。住んでいるうちに、駐輪もここなら大丈夫、という判断ができるようになったので、その後の3代目の自転車は、帰国するまで守りきりました。

またメキシコへ帰るのは、「生き方のデザイン」がしやすいから

いろいろありましたが、無事インターンを終えて、今は故郷の静岡に住んでいます。日本で建築士免許を取ったら、またメキシコの事務所へ戻るつもりです。向こうで学びたいことがまだありますし、働きながら新しいことを勉強できるのはいいことです。

そもそも、建築だけして生きていこうとは考えていません。建築が好きで、今はたまたまそうしたいからしているだけで、建築以外のデザインもやっていますし、時間と土地があったら農業をしてみたいとも思います。

建築を考える時って、日常の些細なことからふっとアイディアが湧くようなことが多いので、日常に余裕が必要なんです。

でも日本の場合、社会全体の傾向として毎晩深夜まで働いて翌朝も早朝から出社して、休日も出勤してというのがわりと普通で、他のことが何もできなくなってしまう。建築という「枠」から逸れることが難しいんです。

メキシコならそのあたりの寛容さがあるので、忙しいとはいえ自分の時間が持てます。それに「生き方のデザイン」を主体的にしたほうがいいと思っていますから、これから建築以外で面白いことをやりたいと思った時に、鯉谷さんや西側さん(Tokyo Divertido社長)のような、自分で何か新しいことをしようとしている人たちの人脈を使って、いろんなことに手を出せるメキシコの方がいいんじゃないかと思いますね。

メキシコへ行きたいみなさんへメッセージ

「建築」という専門的な観点から話をしましたが、インターンを希望してこれからメキシコへ行くつもりなら、何をするにしても行ってみないとわからないことが大半です。それは、日本ではメキシコに関する情報が少ないからです。

自分がやったことでアドバイスができるとすれば、まず人脈を作って、自分で探して、アプローチして。こういう具合にアタックしてみると「雇ってやれないこともない」と、言ってもらえるかもしれませんから。

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