「『日本』を発信する仕事がしたい」人生の転機となったサラゴサ万博
≪amiga≫
「本日は宜しくお願い致します!志賀さん、早速ですがJETROに勤めたいと思ったきっかけなどがあれば教えてください。」
≪志賀さん≫
「こちらこそ本日は宜しくお願い致します。私は上智大学でスペイン語を学んでいました。2008年から1年間スペインに留学しました。留学中にサラゴサという街で、万博が開催されていたので訪問したところ、日本館という日本の文化や産業を発信するスペースを見つけました。万博って、日本のありとあらゆるものが紹介される機会なんです。サラゴサ万博では水がテーマでした。日本の水に対する技術、水を取り巻く環境等について紹介されていたのですが、この日本館の運営をしていたのがJETROだったんです。
留学前は、民間企業を就職先としてイメージしていましたが、このサラゴサ万博でのJETROの活動を目の当たりにして、営利活動として儲けることだけが『仕事』ではなく、技術や製品を幅広く紹介して、海外で認知を深めて、最終的に誰かの購買に繋がることを『仕事』として取り組んでいる組織があることを知りました。帰国後、就職活動に取り組んで無事JETROへ入構することになりました。」
JETRO メキシコ事務所の活動内容について
≪amiga≫
「有難うございます。大変恐縮なんですが、JETRO メキシコ事務所の活動内容等について細かく教えて頂けますでしょうか。JETROは貿易の支援をされているというイメージがあるのですが・・」
≪志賀さん≫
「日本企業の貿易支援も大きなJETROの活動内容ですが、貿易に関係する企業に留まらず、会社設立のサポートや、ビジネス環境を良好化していくための業務全般が挙げられます。またメキシコ人に対してより日本の製品、食品、日用品、伝統工芸品、そしてアニメやゲームなどが売れる、消費されるための取り組み全般もJETROが行っており、私がこの領域の責任者を務めています。また各国の事務所、東京本部では外資企業の日本への誘致等も行っています。
JETRO メキシコ事務所としての大きな仕事として、メキシコ現地資本の自動車部品会社の情報を掲載した「自動車部品サプライヤーデータベース」を運営しています。具体的には、JETROの職員や専門家が自動車部品工場を訪れ、各企業の評価シートを作成します。部品企業としては技術や情報を開示することになるため、JETROのような中立な立場だからこそ、できる仕事の一例です。
メキシコの現地自動車部品サプライヤー情報私がEncounter Japanさんと共に制作させて頂いた、メキシコシティスタイル動画についても、JETROが行うべき仕事の一つです。メキシコ市場へ進出した際の成功の秘訣や、メキシコの日本食市場プレーヤー、医療機器分野、ファッション・デザイン分野、アートなどに関する現状を動画を通じて解説しています。ぜひメキシコに興味がある方はご覧ください。
関連動画:メキシコシティスタイルブームは終わってしまう。ブームではなく、現地に根付かせる取り組みを。
≪志賀さん≫
「私は2014年から1年間、現在と同じメキシコ事務所に勤務していました。当時は、気軽に美味しい日本食を食べられる機会は少なかったです。現在メキシコシティでは、日本食は単なるブームではなく、根付いてきていると感じています。ブームをつくる、というのは比較的実現しやすいんです。ただしブームはいつか終わってしまう。日本の商品をメキシコで長く購入してもらうためには、日本に対しての印象、文化に対してのイメージを現地にポジティブで、正しい理解を根付かせて行かなくてはならないと感じています。
担当業務の一環として、「日本産食材サポーター店認定制度」という農林水産省とJETROが海外で実施している制度の普及活動についても積極的に行っています。この制度は、日本の食材を輸入して販売している小売店そしてレストランに対して、本物の日本産食材を使用しているという認定しています。2018年の時点ではメキシコ国内に28店舗しか認定店がありませんでしたが、現在は120店舗以上が登録され、急激に認定店舗数が増加している状況です。
日本産食材サポーター店認定制度メキシコへの和牛の輸入が解禁された2014年以降、和牛の輸入量・消費も年々増加しているのですが、「日本食の正しい認知・理解を根付かせる」ということはJETROの重要な業務です。例えば和牛についても、アメリカのテキサスで飼育された『Wagyu』が、現地の人々に、日本産を意味する漢字の「和牛」だと間違って認識されることは、日本そして日本の生産者にとってネガティブなことで、あってはいけないことだと思っています。アメリカ産の肉は、焼いてステーキで食べる。ただし日本産和牛は良質な肉であることに加え、ステーキで食べることのみならず、しゃぶしゃぶとして食する方法もある。和牛についての正しい理解をメキシコで浸透させていく、ということは今年度、卸企業や団体等から協力を仰ぎながら取り組みたい大きなテーマの一つですね。
またロサンゼルスの日系食品企業や、日本の食品企業に対して「メキシコはまだ開拓できる市場だ」ということを感じ取ってもらう取り組みを様々な観点から実施しています。
2021年2、3月には鹿児島県のブリをプロモーションする事業を立案、実施しました。またメキシコ国内の主要都市で日本食を提供する「DEIGO」「SUEHIRO」「GOEN」の三都市に人気Youtuberを招聘し、それぞれのレストランで本物の日本食が食べれますよ、ということを発信したんです。動画の再生回数は700万回を超え、各店舗では動画を視聴したメキシコ人の来店数が急激に増加し、それに伴って日本食材の消費増加や日本食の正しい理解の普及に繋がったと思います。メガインフルエンサーを巻き込んだ事業というのは、これまでJETRO全体として殆ど事例がなく、成功した取り組みでした。
プロモーションを「実施すること」自体に意味があるのではなく、実施した先の、各事業者の儲けが発生しなければ意味がないと、現場に来てから強く感じますね。事業を通じて、企画や事業に関係した企業や個人が必ず儲かること。いつも関係者がマネタイズ出来ているかについてを念頭に置くようにしています。」