JETROとJICAの役割との違い。カメルーンの「胡椒」を日系企業が注目するまで
≪amiga≫
「色々とご丁寧に説明いただき有難うございました。多くの読者の方は、JETROとJICAの明確な違いについて中々ご存知でないと思います。これらの2つの機関の違いについてご教示頂けますでしょうか?」
≪志賀さん≫
「勿論です。イメージしやすい例を出します。井戸がないために、村人が毎日5時間をかけて水を汲みに行く村があるとしましょう。その人たちのために井戸を建てて、水汲みにかかっていた時間を削減し、仕事をする時間を作り出すのがJICAの仕事です。JETROの仕事というのは、その作り出せた5時間で産業を生み出す手助けをするというもの。製品を磨き、将来的に日本企業に買ってもらう、ここまでのサイクル作りが我々の仕事ですね。」
ちなみに、私が入構後、初めて担当したのはアフリカに関わる仕事でした。当時は中国がアフリカにへの進出を急加速しており、アフリカ各国で駅やスタジアム等の開発を中国の会社請け負っていました。それらの投資や開発に対して、現地の人々はとても感謝していました。もちろんこのようなインフラ開発支援も重要なのですが、本質的に現地の人々の生活を豊かにするかというと、必ずしもそうではないと私は考えています。やはり自国の産業を興して雇用を創出するという、良いサイクルを生み出さなければ、そこで生活する人々の人生は変わらないでしょう。
≪amiga≫
「大変わかりやすいご説明有難うございます。志賀さんが担当されたもので、JETROの途上国関連の仕事を表す例などはございますか?」
≪志賀さん≫
「カメルーンにペンジャ村というところがあるのですが、そこではフランスに輸出しているピンク色の胡椒を栽培・生産していたんですね。日本では当時、高級な胡椒が人気で需要高になっていましたが、日本の主な仕入先はベトナムなどの国々だったんです。そこで新しい産地としてカメルーンのペンジャ村を紹介し、ブランド作りのサポートを行って、日系企業との取引を促す取り組みを行いました。日系企業の傾向として、一度仕事を共にすると長期に渡って取引することが多いことから、村の人々にとって中長期の収入源となるビジネスとして成り立つと考えました。最終的には村の人々が日本贔屓になってもらうまでを構想していました。
実際に食品商社と共にカメルーンの産地を訪れました。そこから日本に売り出していくために展示会に参加してもらい、『こうすれば日本人は手に取る』という例を実際に見てもらいました。それまでは、フランス向けのパッケージが最良だと彼らは思っていたんです。けれどもそれでは日本では売れないことを知り改善しました。その後、FOODEXという日本最大の食品見本市へカメルーンの生産者を招聘したところ、結果として日系企業との商談がまとまり、日系企業が彼らの商品を購入するまでに至りました。カメルーンの生産者の方々からすると、JETROがサポートするまでは日系企業と取引が出来るようになるなんて、全く想像だにして無かったですね。
なお日本人が求めるパッケージを制作するため、日本企業からパッケージの製造設備を購入することになったので、様々な日本企業にとってもメリットを提示することが出来たため、双方の国、企業に貢献できたと自負しています。」
企業がブレーキを踏まざるを得ない中、JETROはオフェンスに
≪amiga≫
「色々とご説明頂き有難うございます。カメルーンの胡椒の事例も非常に分かりやすく、JETROの業務内容がよりクリアになりました。お話を伺って、志賀さんは日々使命感を持って仕事をされていると感じるのですが、コロナ禍の中で、日本人駐在員が避難帰国する中でも、志賀さんはメキシコに残って業務にを続けられていたと伺っています。コロナ禍の中で、どのようなことに取り組まれていたかお話頂けますでしょうか?」
≪志賀さん≫
「新型コロナウィルスが流行し、あらゆる仕事に急ブレーキがかかり、日本とメキシコも同様に、ありとあらゆる企業・産業が守りの体制に入らざるを得ない状況に陥ってしまいました。そんな最中で「なぜ自分はメキシコにいるのか」と自宅でずっと考えていたんです。JETRO、そして私がメキシコにいて、できることはなんだろうと自問自答を繰り返していました。
先行きの見えないコロナ禍では、企業が攻めの姿勢に入ることは中々できないことは明白な事実です。ただし、そんな最中でも困っている産業や企業のために、JETROが攻めの事業や取り組みをとるべき、そして攻めの取り組みの実施が可能であると考えるようになったんです。
悩んだ結果、私が周りの企業や団体を巻き込んで実施した施策は3つあります。先ほどお話した、Youtuberを起用した日本食のプロモーション、中南米と日本の工房を繋ぐバーチャルツアー、そして日本酒と泡盛のオンライン試飲会です。
コロナ禍における最たるダメージの一つは、渡航が困難になったことで、日本企業がメキシコに出張して現地の消費者ニーズを汲み取れなくなったことでした。ミスマッチな提案が発生する確率が高まっていた状況でしたが、オンラインアンケートや商談会という方法に辿り着いたことで、コロナ禍前と同様の情報量が遠隔で獲得できることが証明出来たのです。
2020年7月には、佐賀県の有田焼を中南米全土の200人のバイヤーに対して紹介するなどして、人々の移動が出来ない中で商品の露出と販路拡大に努めました。試飲会では、メキシコ人に人気のある日本酒をその場でアンケートを取り、項目毎に評価を行った上で、それらの情報をクラウド上にアップしました。酒蔵の商談では、海外のバイヤーが日本へ出張せずとも、事前のアンケートからメキシコ人に人気のお酒を知ることができました。以前までは、現地の卸売企業やレストランは現地で販売するお酒を、推測で購入するしかなかったものの、これらの取り組みを通じて、より顧客の趣向に基づいた、販売が見込まれる商品の選別が可能となりました。日本酒については、これらの取り組みを通じて日本の酒蔵8社のうち3社の商談が成立しました。コロナ禍でチャレンジし、結果も伴ったデジタルを活用したこれらの取り組みについて、改めて可能性を精査し、より一層勉強しながら今後も事業に活用したいと思っています。」
JETROで働くことを志す若者、そして全てのスペイン語学習者へ
≪amiga≫
「本日は貴重なお話を有難うございました。最後に二つほど質問させてください。読者の中で就活生も多くいるのですが、JETROが求めている人材像はどのような人物だとお考えですか?」
≪志賀さん≫
「こちらこそ、本日はどうも有難うございました。JETROとして求める人物像ですが、自らが起こす行動を通じて、関係する全ての企業・個人がメリットを享受できることを考えられる人だと思います。JETROで挑戦したい、取り組みたいことについて明確であることも必要だと考えています。海外で様々な業務に取り組みたいから、というのでは不十分でしょう。商社でも銀行でも、世界中で色んな業務に携わることが出来る中で、JETROでしか出来ないことをイメージして、面接の際などでアピールすることが重要だと思います。」
≪amiga≫
「有難うございます。それでは最後に、スペイン語を使って実際に海外で活躍されている志賀さんから、スペイン語学習者に向けて一言メッセージをお願いします」
≪志賀さん≫
「数ある外国語の中からスペイン語を選んだ時点で、正解だと思いますよ。その理由は、スペイン語が話せると、世界の約5億人とコミュニケーションが取れるようになります。公用語がスペイン語でなくとも、米国にもスペイン語を話す人々は多く在住しているので、様々な国々で活躍できるでしょう。これからスペイン語を使って仕事をしたいと考えてる方々は、自分に厳しく勉強に取り組むようにしてください。しっかりと語学を勉強し、習得した方々には、スペイン語を使って活躍できるフィールドが世界にひろがっていると思います」