最初の関門は、「セキュリティデポジット」!
不動産ブローカーに紹介してもらい、『この住宅にします』と返事をした後、大家から要求されるのはセキュリティデポジットの納付。セキュリティデポジットは住宅確保の確約の役割を果たし、契約満了後に補修費等を差し引いて返金されることになっています。
しかし、契約書の中身も知らずにセキュリティデポジットを置いてしまい、やっぱりこの条件では契約できませんとなった時に、セキュリティデポジットがすんなり返ってこないケースもあります。セキュリティデポジットを置く前には必ず契約内容を確認するか、物件が流れないようにキープする場合は、インテンションレター(賃借意思表示)を送って、万が一契約内容が合意できない場合はデポジットを返す約束にしておくことが重要です。
そして、契約内容の確認となるわけですが、駐在員の方々の場合、社内の弁護士に見てもらうことになるかと思います。ここで極稀に弁護士の方はOKを出したものの、駐在員にとっては少し納得できない内容になっていた、ということが発生します。これはメキシコと日本の賃貸文化の差があることから来ているため、自分でもポイントを抑えておく方がよいでしょう。
メキシコ人同士の賃貸契約の場合、借り手があまり契約書を読んでいないということもありますが、一般的には大家が有利になっていることが多いです。以下いくつか例を挙げてみたいと思います。
契約書を要チェックしトラブル回避へ!
1. 契約期間は最低1年間で途中解約は原則できないことになっている。
2. セキュリティデポジットは1ヶ月分の家賃相当額とする。
3. 更新も1年毎となっており、2年目であっても途中解約の場合は違約金が発生する。
4. 更新の通知は60日以上前に行う。
5. 更新時には新家賃を設定する。(上昇率が記載されている場合もある)
6. デポジットの返金は契約終了後60日以内に返金される。
7. 電気、水道等は滞り無く支払いされ、それらの領収書を最後大家に提出しなかった場合、デポジットから違約金が引かれる。
8. 住宅は完全な状態で引き渡されたとされ、入居後の不具合は全て入居者が責任を負う。
9. 家族以外の同棲の禁止。
10. ペット飼育の禁止。
11. 住宅として以外に使用することの禁止。
12. メキシコに不動産を持つ人物を保証人として置く。
その他にも、危険物の持ち込み禁止、指定する金額をカバーする損害賠償保険に加入していなければならない、デポジットを3ヶ月分の家賃相当額にする、途中解約時は期間中の家賃全額に2ヶ月分の家賃を足す、など入居者の方に関する義務が延々と付け加えられることが通例です。
『自分でできるところは自分で』の姿勢をもつ
しかし駐在員の場合、一定レベル以上の物件を決して安くはない賃料で借りられていることが多いので、ここまで大家にばかり有利な条件でなくても……と思います。
例えば言葉ができない外国人なので、修理のところは構造上の欠陥の場合大家さんが修理してくれる等、後々負担にならないよう可能なかぎりで交渉していただくことをお勧めします。
ただあまり極端に無理な交渉をすると後々大家との関係がこじれかねません。契約内容はもちろん大切ですが、その他家具の設置や防犯策の条件交渉などは基本的に『自分でできるところは自分で』を基本にして頂くと対等な立場で契約が出来るようになります。
メキシコ人の性格を理解する!
また契約内容が曖昧で、本当であれば大家さんが払ってくれても良いものであっても、大家さんから『それはできない』という返事が来ることもあります。また修理を頼んだのに約束の時に来なかったなど、文句の一つも言いたくなることが起こるかもしれません。
しかしここで喧嘩をしても退去時にデポジットが返金されないなど私情に基づくトラブルが発生する可能性もあります。(メキシコ人の気質の回でも紹介しましたが、変にプライドが高いと融通が余計に効かなくなる人がいます)
契約の内容をしっかりと把握し、契約書に記載されていない争点については『自分の常識』で言いくるめるのではなく、『ダメ元でお願い』してみると頼まれたことは断れない人も多いメキシコ人ですから、意外とうまくいくかもしれません。
大家さんとの良好な関係を目指そう!
こうした大家さんとのトラブルは実は契約書交渉の段階などで防ぐことが出来る場合もあります。たとえばまず大家がかなり有利な内容の契約書を提案され、交渉していくうちにどこが譲れないポイントかが見えてきます。そのポイントが入居の際に後々問題になりそうな場合、柔軟な対応をしてくれない大家さんということで、家は良くても潔く諦めることも大切です。
また契約書に書かれていることと異なる内容を『大丈夫、契約書にはそう書いていても私はきちんと対応します』という大家さんも要注意です。やはりなんだかんだで契約書が基本ですので、契約書の内容が納得出来ない場合はサインをするべきではありません。
また交渉時にやたらとデポジットを急ぐ大家さんの場合、自身の資金繰りが良くない可能性があります。そうした大家さんの中には最後セキュリティデポジットの返金を惜しみ、難癖を付けて返金しない事案に繋がることもあります。
全員が全員そうではありませんが、例えば入居中の補修費がたくさんかかった時に、そこで帳尻を合わせてくる場合もありますので、契約条件交渉中には大家の態度にも注目し、もしそこであまり印象が良くならなかったのなら、本命の住宅であっても縁がなかったとして別の物件に入居することも検討していただきたいです。今後長くお付き合いをされる方なので、やはり気の合った方が大家さんになると安心感も違います。
一方言葉の問題からすべて不動産ブローカーを間に入れて交渉し、大家の素性が知れないこともあります。特別な理由がない場合は、契約前に一度必ず大家さんを知っておくことを推奨致します。第三者を介入することで、交渉内容が上手く伝わらない(ブローカーはSíって言ったけど大家は知らなかった、など)弊害が出てきます。
最悪のケースでは、大家に委託されていると偽って大家さんに黙って勝手に物件を賃貸することもあります。そうしたトラブルを回避するため、特に後者は法的係争にもなりかねませんので、契約前に大家さんを知ることはとても大切です。また本当に大家さんであるかを確認するには、売買契約書や不動産登記書、固定資産税納入書など所有権を記した書類のコピーを見せてもらうと良いでしょう。