
日本食普及の親善大使とは?

日本食普及の親善大使とは、農林水産省が日本食や日本の食文化の更なる魅力を国内外にて広めることを目的として、海外で現地の日本食料理関係者等の相談に応じ、日本食の普及に関する的確なアドバイスを行う日本料理関係者を「日本食普及の親善大使」として認定する制度です。世界に15.9万店舗の日本食レストランがあると言われている中、親善大使に任命された料理関係者の数は、2015年2月に最初の任命が行われてからの7年間で173名と非常に限られています。
そんな親善大使の主な仕事は以下の3つに定義されています。
①農林水産省が実施する日本食・食文化の普及事業への協力
②自らの活動や出演する各種メディアでの日本食・食文化に関する情報発信
③プロの視点に立って海外の日本料理関係者などへ助言することなどを通じた、日本食・食文化の普及
(参照)
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海外での日本食ブームが加速する中、親善大使による現地での日本の食文化に関する情報発信を通じた更なる日本食の普及が期待されています。
【九本氏・浅井氏のプロフィール】
■九本和氏
1969年の来墨以降、「Torobi」「Tori Tori」「Murasaki」などの日本食レストランを手掛ける。メキシコを代表する航空会社「アエロメヒコ」の機内食監督者や大手ホテルの日本食アドバイザーを務めた経歴を持つ。現在はKazu’s Kitchen のオーナーシェフとしてメキシコシティとケレタロの2拠点で活躍中。
■浅井康雄氏
23歳で単身ニューヨークへと渡り、料理人としてのキャリアをスタート。その後、チリ・ブラジルのルHyattにて料理長を務める。その後日本国内のレストラン勤務を経て、メキシコシティにあるHyattにて四年間料理長を務めた後、独立しAsai Kaisei Cuisine をメキシコシティにオープンし、懐石料理を通じて伝統と独創性を持った唯一無二の体験を提供している。
任命式典の様子

会場入り口には親善大使がご用意された食事がディスプレイされており、1つ1つの料理の隅々まで行き届いた大使の料理への拘りに、驚かされました。
今回の式典には在メキシコ日本大使館から福嶌教輝大使も参列され、この度新たに任命された九本氏・浅井氏の2名と、2020年にメキシコ初の親善大使に任命されたエド・コバヤシ・グループの創立者である日系三世のエド・ロペス氏を合わせた3名の親善大使の日本食文化普及のための功績を讃えられました。
イベントの中で、福嶌大使は「173名の限られた親善大使の中で、メキシコに3名もの親善大使がいることは大変意義のあること。メキシコにおける日本食市場の更なる拡大と日本食文化の普及に期待したい。」と言及されました。「今後は4人の大使で頑張っていきたい。」と冗談を交え会場を和ませながら、親善大使3名にお祝いと激励の言葉をかけられました。
式典では、主催のJETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)進行のもと、親善大使達のこれまでの経歴の紹介や親善大使としての意気込みなどに関する質疑応答が行われました。
日本食普及までの長い道のり:「日本人って本当に生魚を食べるの?」

「私がメキシコに渡航したばかりの頃は『日本人って本当に生魚を食べるの?』と何度も聞かれました。」とご自身がメキシコに来られた当初の様子を振り返り、1969年にメキシコに渡られてから50年以上のメキシコ日本食市場の変化を語ってくれた九本氏。
1980年頃より徐々に欧米の影響を受け、寿司・鉄板焼きなどの日本食がメキシコ人にも親しまれるようになり、今ではラーメンや焼き鳥など様々なジャンルの料理に対するニーズが生まれていると言います。
同氏はメキシコを代表する航空会社「アエロメヒコ」の機内食監督者を10年近くの間務められ、機内食用の日本食を提供する業務に従事されました。またメキシコの国営テレビ局が放映する料理番組内において日本料理の紹介を行ったり、大手ホテルの日本食アドバイザーを務められたご経歴を持ち、同氏のメキシコでの日本食文化の発展に寄与してきた功績は計り知れません。
そんな同氏は今回の受賞に対して「料理が好きという気持ちがあったからこそ続けてこられました。長年メキシコで料理に携わってきたからこそ、日本食親善大使に任命頂けたのだと思います。」と語り、「今日は何を作ろうか。今日は何を食べようか。」という純粋な食への好奇心が同氏の食に対する原動力であるとAmigaの取材に対して答えて頂きました。
メキシコにて長年飲食店を経営する同氏のもとには、同業種の一流シェフ達からの質問や相談が多く寄せられるとのことで「意見交流の場を定期的に開催している訳ではないですが、同業種の方々から日本食に関してのご質問を頂く機会が多くあります。今後も皆様の日本食への純粋な好奇心に対して、親善大使という立場で丁寧に1つずつ答えていきたいです。」と意気込みを語って頂きました。
ニューヨーク・チリ・ブラジルと世界を渡り歩き続けた料理人

幼少期の頃より料理に目覚めた浅井氏は、20代の頃より世界を舞台に料理人としてのキャリアを積んで来られました。
ニューヨークから始まった同氏のキャリアは、その後チリ・ブラジルへと舞台を移し、日本での更なる料理修行を経て、メキシコへと辿り着きます。
日本食の中でも、特別な位置付けである懐石料理を提供する同氏の任命は、今後メキシコのみにとどまらず、アメリカ大陸のより広い地域において大きな影響を及ぼすこととなるでしょう。
式典の中で意気込みを聞かれた同氏は「時や場所が変われば文化や伝統のあり方は変わっていきます。世界に誇る日本食も例外ではありません。親善大使として、日本食のフィロソフィーを伝承していくことが重要だと考えています。」と答えられ、日本の伝統として継承されている懐石料理を提供し続けている同氏ならではの意気込みを伺うことが出来ました。
同氏は、「今後はメキシコシティのみならず、メキシコ国内のより多くの地域へと活躍の場を広げていきたいです。またメディアへの露出にも尽力していきたいと考えています。親善大使である私がメディアに出ることで日本食の露出が増え、よりメキシコ人にも親しみを持って頂けるのではないかと思っています。今後もメキシコでの挑戦を続けていきます。」と親善大使らしい力強い言葉を残してくださいました。
【インタビュー】挑戦し続ける料理人、浅井康雄の歩みと人生の教訓。新親善大使が語るメキシコ日本食市場の展望
九本氏・浅井氏の両名は口を揃えて「メキシコは日本食を提供するための環境が年々整備されてきている。」と言います。
調味料などをはじめとする日本食材へのアクセスは、数十年前とは比べ物にならない程改善され、日本食に利用出来るメキシコ産の食材も豊富。それだけでなく日本食に対して強い尊敬の念とあくなき探究心を持つメキシコ人料理人の存在も大きいとのこと。
任命式での両氏のコメントや取材を通して、今後メキシコでも寿司や鉄板焼きだけではない、より本格的でバラエティーに富んだ日本食普及の大きな可能性を感じることができました。
メキシコにおける今後の日本食の可能性とマーケット・イン

今回新たに親善大使に任命された浅井氏・九本氏だけでなく、当式典を主催されたJETROの志賀氏にもお話を伺いました。
志賀氏は「メキシコでの長いご経験を持つ九本氏、メキシコのみならず世界で日本食を広め懐石という日本食の中でも更に特別な位置付けの料理を提供し続ける浅井氏、両氏の任命は、多方面からの推薦もありごく自然な流れでした。」と今回の親善大使任命の背景をお話ししてくださいました。
続けて志賀氏は、「調理方法や食材の使用方法に関して正しいや間違っているということはありません。その国に住む人々が美味しいと思う調理方法や食べ方を正しく把握し、市場のニーズにあった(マーケット・インという)形で、日本食を更に広めてことが今後必要となっていくと考えています。」と今後のメキシコにおける日本食市場の拡大のために必要不可欠なポイントを語って頂きました。
JETROは2022年2月下旬より、カンクンなどのリゾートホテルが多く存在するキンタナロー州で日本産和牛・酒類・はまちのプロモーションを実施し、今後は更に日本産米のプロモーションなどに尽力されていくとのことです。
まとめ
新たな親善大使の誕生により、日本食文化は更にメキシコで発展していくのではと強く感じることが出来る式典でした!更に美味しい日本食が、もっと手軽に手に入る日も遠くないのかもしれませんね!任命された九本氏、浅井氏おめでとうございます。お二方の今後の親善大使としてのご活躍に要注目です。