【スペイン語で表現されるメキシコ人の時間軸】
言語には文化的背景と結びつく表現が多くありますが、メキシコで特に印象的なのは【時間】についての表現でこれは私達日本人だけではなく、欧米諸国の人にとっても関心が深いといわれています。 今回のamigaではメキシコ特有のスペイン語で表現される時間軸について解説していきます。
【メキシコ人から教わった”Ahorita”の秘密!】
「Ahorita アオリータ」というスペイン語を聞いたことがありますか?
メキシコにいれば「Ahorita」「今」という単語を聞かない日はないと言っても過言ではないですが、私達日本人はこの「Ahorita」の捉え方にいつも困惑しているのではないでしょうか?
例えば、筆者はメキシコに着いた当初はメキシコ人とのこんなやり取りにいつも振り回されていました。
筆者.「Hola ? cuando llegas ? 」 (もしもし、いつ着くの?)
友人.「Ahorita llego !」(もうすぐ着くよ)
筆者「Ahorita ? ? 」(もうすぐ?)
友人「Si si Ahorita llego ! 」(うんうん 今すぐ着くよ!)
-20分後...
筆者「Ya ??」(もう着いた?)
友人「Ya ? Que ? 」(もう?なに?)
筆者「Dijiste que ya llegas ! ¡Estoy esperando ! 」
(もうすぐ着くって言ったじゃん!ずっと待ってるんだけど!)
友人「Ah Si llego ahorita en 20 minutos ! 」
(ああ。うん!あと20分くらいで着くよ!)
とこれは、ほんの一例ですが、こういうやりとりはメキシコで生活していると日常茶飯事ですよね。
日本人の感覚では「今」と言われればまさしく「今」この瞬間と捉えてしまいますが、メキシコ生活が落ち着いてきた頃にメキシコ人の友人にこのことについて尋ねると、彼らにとって時間の捉え方と「Ahorita」は私達の理解と全く違うということを教えくれました。
【メキシコ人の時間軸とは?】
「Ahorita」の感覚を説明する前に、メキシコ人がよく使う時間についてのスペイン語を【今→未来】で見てみましょう。
【Ahora】はまさに「今」この瞬間です。「Ahora Mismo」というともっと厳密に「今!」という感じでしょうか。
【Luego】は直訳すると「後で」となり、「今」から未来を意味します。
【Al Rato】はこちらも直訳では「後で」という意味ですが、感覚的にはLuegoよりも未来の感覚があります。
「Al Rato」と言われたら個人的には社交辞令ととらえるか、または「ああ結構時間かかるな」と考えます。
【Mañana】は「明日」ですが、時間軸を説明する際にはAl ratoよりもずっと未来。今から次の日までのどこか。と表現されるそうです。
でも。。「明日」になっても来ない というケースはよくありますよね。笑
これらの表現は「いつ」「何時何分」などの具体的な時間を伝える為に使われるものではなく、「Ahora (今)」から先の未来のどこかを指すようです。
「後でね!」と言われるとそれが「いつ」なのか知りたくなって待ち構えてしまいますよね。
でも、実際は「Ahorita」や「Luego」「Al Rato」どれも「Ahora (今)」から先のこと。明日までかもしれないし、明日以降、いや。。その時は遂には来ないかもしれません。
【メキシコ人は時間を線で捉える】
とは先述のメキシコ人知人に教えてもらったことです。
私達日本人が慣れ親しんでいる「何日の何時」や「今この瞬間」という「点」ではなく、どちらかというと「今から先のどこか」という「線」感覚です。
その「線」の時間軸をうまく説明しているのがこちらの図です。
【Ahora】を【今】現在(Presente)とするなら、【Ahorita】は明日までのどこか。【Luego】かもしれないし、【Al Rato】かもしれない。もしかしたら、明日の後かもしれない。今から先の未来のある範囲が【Ahorita】だと理解できます。
【Ahorita】と言われて、「いつなの?」とやきもきしたり、イライラしたりしていましたが、この図をみて【Ahorita】は今からのどこかであると理解すると何故か納得できます。
この図を見て【Ahorita】が「今この瞬間」ではないと知った後はなんとなく心に余裕ができたのは筆者だけでしょうか?
【なぜ”Ahora”じゃなく”Ahorita”?】
メキシコ人が使うスペイン語の特徴に【diminutivo】という素の形を小さくして愛情や尊敬を強調する使い方があります。これはメキシコにいると本当に良く聞く表現で
例えば:
Pequeña(小さい) →Pequenita (とても小さい)
Gato (猫)→Gatito (子猫)
Taza(カップ)→Tacita (可愛いカップ)
などですね。
『Lo que se siente pensar o la culturacomopsicología』(2011)の著者であるPabloFernándezChristliebは【diminutivo】 は多くの場合、愛情表現に使われるのですが、時にはこの表現を使うことで、「伝えたいメッセージから重要度を取り除き、曖昧な表現にして提案する場合に使われる」と説明してます。
【Ahora】を【Ahoraita】にすることで、「今直ぐ」から一時的なコミットメント(約束事)を取り除いて「今直ぐ」という言葉がもつ重要度を低くしているそうです。
ですので、図にもあるように
【Ahorita】は【Ahora】から先の線上の時間軸のどこかのポイント、それもとても曖昧なポイントを指す時に使われているといえます。
【Ahoraitaと言わたら?】
約束をしたり、配達を待っていていたり、または仕事上で依頼をしたりした際に【Ahorita】と返事をもらって「いつなんだろう?」と不安になったら
【Cuando?】 【A qué Hora ? 】と詳しく指定してもらうか、もしくは約束が満たされるまで頻繁に確認することをおすすめします。
なんども確認しても【Ahorita】という答えしか返ってこない場合は、待ちながら別の用事を進めたり、諦めて違う用件を入れたりできます。
どちらにしてもメキシコ人は悪気があって【Ahorita】と言っているわけでなく
「日本人のワタシたちとは異なる時間感覚をもっている」として理解すると【Ahorita】という言葉にうまく対応できるようになるのではないでしょうか。
【番外編】
時間軸の【Ahorita】とは別の例としてちょっと面白い使い方があります。
例)
ー¿Quieres una rebanada de pastel ? (ねえ、このケーキ食べない?)
ーah—si ahorita .. (うん。。後でね)
メキシコでこの様なやり取りを経験された方も少なくはないのではないでしょうか?
メキシコ生活の最初の頃はこの様に、なにかを提案しても【Ahorita】と言いながら相手の反応の薄さに戸惑っていましたが、実はこれは時間感覚の【Ahorita】というよりは提案されたことに対してあまり気乗りがしないもしくは「どっちでも良い」場合によく使うそうです。
メキシコ人とのやり取りのなかで、ちょっと心がざわつくことがある時はありませんか?それはもしかしたらスペイン語のニュアンスや受け取り方が原因なのかな。と考えてみてもおもしろいかもしれません。
実際、「Ahorita」がこの様に使われること知ってからは
「ああ。。あまり興味ないんだな」と思えるようになって気が楽になりました。
【まとめ】
今回はメキシコで良く耳にする【Ahorita】とメキシコ人の時間感覚について紹介しました。筆者はメキシコ人の友人にこの感覚を教えてもらった時にスっと心が軽くなって時間に関してイライラすることが少なくなったのと同時に文化と言語の繋がりの深さを改めて知って益々メキシコとスペイン語が好きになってしまいました!
読者の皆様も【Ahorita!】と言われたら少し余裕を持って待ってみてはいかがでしょうか?
amiga ではこの様なスペイン語に関する豆知識を紹介してますので是非参考にしてみてください!