思い出深い中南米での幼少期
———昨年の7月に在任されて1年経ちました。メキシコにいらっしゃる前はどちらにいらしたのですか?
メキシコの前は長崎にいました。その前は東京、パリ、モントリオールと、いろんなところで駐在していました。実はこの会社は二番目で、前職はビールメーカーで4年4ヶ月、泥臭い営業と社会人ラグビーに勤しんでいました。ですが試合中に大きな怪我をしてラグビーができなくなって。ちょっと燃え尽きていた時に、たまたまANAの求人を新聞で見つけて、受けてみようかな、と思ったんです。もともと新卒の就職活動のときも、航空会社は気になっていました。
実は小学校2年から中学1年まで、父の仕事の関係で中南米のエルサルバドルに住んでいたことがあったんです。一年に一度くらい日本へ一時帰国する時には、必ず飛行機を使っていました。子供心に楽しくて、わくわくした思い出がありましたし、そのころの経験もあって海外で仕事をすることにも憧れがあったので、この業界にはいいイメージを持っていました。
————幼少の頃から中南米にご縁がおありだったとは、存じませんでした。
日本人学校はなく、アメリカンスクールに通って、スペイン語もそこで覚えました。エルサルバドル内戦の前で、一学年違いのご両親が誘拐殺害にあった、というショッキングな事件があったりして、治安が少しずつ悪くなっていた前兆はありました。また、大金持ちのエルサルバドル人のご子息のクラスメートがたくさんいて、お家に遊びに行ったら車が10台、とか、ジェット機があった家もありました。子供の頃はそういう事情なんてわかりませんから、毎日みんなと遊んだり海で泳いだりとただただ楽しかったんですが、今思えば貧富の格差が大きい社会ならではの体験でしたね。
そのあとは大学卒業する前に、父の駐在していたコスタリカ経由でもう一度エルサルバドルに行ったんですが、ちょうど内戦の終わりかけで、治安が悪くて驚きました。今またメキシコにいるので改めて行きたいんですが、やっと戦争が終わってゲリラがいなくなったと思ったら、今はギャングがはびこっているようで、まだ少し心配ですね。友人の案内があるなら、また行ってみたいです。
そんなこんなで、幼少期を5年過ごした中南米には総じて良い印象があります。治安とか格差とかいろんな問題でよくないイメージもありますけれど、他の国や地域でも何かしらの問題はありますから。
親日国メキシコでの生活
————ご幼少の頃から各国での駐在も含め、たくさんの国で生活されてこられたのですね。他の国と比べて、メキシコはどんな印象ですか。
メキシコのいいところは、すごく親日国で、ここでは人々がみんなamistad(友情)を大切にしてamigable(フレンドリー)なのですごく生活しやすいですね。
————なるほど。メキシコにも馴染んでこられたと思いますが、お休みの時とかはなにをされているんですか?
1年いますけれども、色々忙しくて、実はまだ休日もまともに休めていません…休日は仕事を片付けたり、日墨協会の秋祭りとかのお祭りといったイベントがあったり、ゴルフもあったりと、忙しくしています。メキシコ支部は今3人しかいないので、少し回すのが大変です。
ただ、闘牛とかサッカーとか、ルチャリブレとかの観戦に行くのはとても好きですね。闘牛は2回行ったんですが、牛を殺すことへの倫理的な議論も含めて、見ながらいろんなことを考えました。それも含めてスペイン植民地時代からの伝統文化であり、芸術なんだなと思いますね、あれはすごい迫力ですよ。
メキシコを宣伝・発信・紹介するためにも、自分の足でメキシコのいろんな場所に行って、いろんなものを見たいと思っています。こっちでたまたま知り合ったメキシコ人のおじさんがいろんなところに連れて行ってくれるので、そういうのも頼りにしています。
メキシコならではの苦労経験も
————休日返上でメキシコ研究ですね。メキシコに到着されてから、驚いたことや苦労されたことはありますか?
子供の頃から中南米のことをよく知っていますし、フランスも結構ラテン気質なので、直接的にはそんなにないかな…でもメキシコシティーの渋滞がひどいのにはしばらく耐えられなかったです。最近は慣れてきましたが…。
あとはいろんな手続きが煩雑です。会社関係のことでやらなければいけない手続きがたくさんあるのですが、やたらと時間がかかるし、紙作業が多くてかなり面倒で、日本ではあんまり考えられないですね。
例えば、7月にメキシコに着いて、銀行口座を作りに行ったのですが、何度書類を出しても「あれが足りない、これが足りない」と言われて、結局口座を開設できたのが12月でした。クレジットカードも欲しいのですが、作るのに2年かかったという人の話を聞いて、迷っていますね。タクシーアプリのUberを使うためだけに持っておきたいんですが…。
人、食、気候が豊かなメキシコ
————やっぱり普段は流しのタクシーなどは乗られないんですか?
会社の決まりで、公共交通機関と流しのタクシーに乗るのはNGになっています。ニュースで、メキシコシティーの地下鉄は乗り換えが大変だし、スリがいるし、痴漢もいるしで、世界一女性にとって不便だ、と言っていましたよ。一度、レフォルマ通りでゴミ箱にスった財布を中身だけ盗って捨てているのを見たことがあります。でも、スリ置き引きはパリの方が多いかもしれないですね。本当に怖いのは強盗とか誘拐とか、確率は低いけど起こりうる事件ですね。
でもメキシコはいい人もいっぱいいるからいいですよね。メキシコシティーは、気候も暖かくてカラッとしているし、食べ物も基本的に美味しいし、スーパーでもなんでも売ってますから、生活には困りません。問題といえばシャワーの水圧が弱いことと、大気汚染が酷いことくらいです。(笑) 日本食レストランも、レフォルマ通り界隈には茶席とか富士、みかど、東京など、美味しいお店がたくさんありますよね。
————たくさんご存知ですね。食に興味があると伺いましたが、レストランでおすすめの場所はありますか。
そうですね、まずポランコにあるポルトガル料理店のCasa Portuguesaがおすすめです。イワシの唐揚げが美味しいですよ、ポルトガルの伝統的なおつまみです。
メキシコの三大珍味だと、エスカモーレ(蟻の卵)と、とうもろこしのウィイタラコチェが、見た目はえぐいですが美味しいですよ。もう一つのグサノ(芋虫)はまだ挑戦していないです。 あれはちょっと食べれないかな…チャプリネス(コオロギ)はパリパリしてるのでいけますけどね。
これらの珍味を日本から来た方にも食べて頂いていてます。正体を明かさず黙って勧めるとみなさん、おいしい!とどんどん召し上がりますよ。ネタばらしすると怒られます。(笑)
世界的に注目浴びるメキシコのビジネスの可能性
————楽しんでいらっしゃいますね。(笑) 大下さんは、海外にいることのストレスというのは、あまり感じられませんか?
むしろ東京の電車通勤や人の多さにストレス感じます。(笑)
————メキシコでのビジネスについてはどうお考えですか。
今のところは、日本人・日系人の方がメインのお客様です。旅行代理店さんのようなお取り引きの相手も日本人が中心なので、そこまで苦労は感じていません。
メキシコ人のお客様への営業はまだ本格的に始まっていませんが、これから2016年の下期はメキシコシティーへの直行便が就航し、毎日飛行機が行き来するようになると、メキシコとの様々なカルチャーの違い、商習慣の違い、とかに付き合っていくことを覚悟しています。
メキシコは経済もこれだけ伸びて、その結果、中間層も増えてきていますし、 観光客など日本への関心も高まってきていますから、ビジネスとしての可能性は間違いなく大きいと、非常に期待しています。とても楽しみですね。