現地法人社長が感じる、メキシコの可能性と問題点とは【前編】

メキシコで住友商事の現地法人社長を務める橋本さんに、ビジネスにおけるメキシコの可能性、現状の問題点を伺いました。

会社員人生の半分を海外で過ごし、現在の「メキシコ」に辿り着く

ー橋本さんは、入社された頃から海外志向はおありだったのでしょうか。

実は住友商事に入社するまでは、海外に行ったこともなかったんです。入社してからは、アメリカで鉄道車両の修理事業、オーストリア、ハンガリーで自動車関係の輸入代理店事業、もう一度アメリカに行って、メキシコに来ました。会社人生の半分くらいは海外ですね。

ーメキシコと他の国の違いは、どんなところにあるでしょうか。

そうですね、中近東、アフリカも出張で行っていましたし、東欧なども89年にベルリンの壁が崩れて間もない、経済が立ち直っていない時期に駐在したのですが、

それからすると、メキシコシティーのほうが生活しやすいですね、日本料理店も多数ありますから。

もちろん難しい部分もあって、一つは言語の問題。スペイン語は今まで使う機会もなかったので、今勉強しています。もう一つは安全面の問題で、知らないところに気楽に出かけたりはできません。それ以外では、ラテン系の人たちは楽しいですし、印象はとてもいいです。

労働者の安定的確保が現在の大きな課題

―メキシコでのお仕事上のトラブルは、どのようなものがありましたか?

際立って問題はないのですが、自分の想定とは大きく外れたことが起きたり、メキシコならではの不文律のために、問題が起きたりすることはあります。どの国でも起きる可能性はありますが。

現在弊社がメキシコで出資している企業さんは20社あるのですが、現在特に中央高原での自動車関係の事業に注力していて、マツダさんやTier1,2、TBCコーポレーションというタイヤ販売の会社なども含め、14社は自動車関係です。当地に進出している日系企業さんの多くは財経税務関係、輸出入手続き関係などに頭を悩ませています。最近は為替変動が大きく、ドル建てとペソ建てで計算せねばならない場合、税金もそれぞれで変わっていきますので、輸入・所得税・消費税なども含めると非常にややこしい。弊社もかなり影響を受けています。

あとは、労働者の定着率が非常に低いということも問題にされている企業さんが多いです。メキシコ中央高原地域では一般的に従業員がとどまらずに、辞めては入り、辞めては入りが繰り返されます。非常に流動性が高いので、トレーニングをして人を育てても、それが報われないことも多いんです。かといって研修を廃止する、というのも違う。きちんと研修を受けた人の方が定着率は高いので、今はそれを信じて、人材育成は続けなければなりません。これからバヒオにトヨタさんが、サンルイスポトシでBMW、FORDが、日産さんのインフィニティも進出しますから、生産は増えていく一方なので、労働者の安定的な確保は大きな課題ですね。

―人材の定着率はどれくらいなのですか?

ピンキリですが、一年間で100%入れ替わってしまう場合も珍しくありません。 平均的には40-60%くらいと思いますが、離職率が10%もいかないようなところもあります。こういうところは、人材教育や企業文化の伝達に成功しているところだと思います。とはいえ、定着率は以前より上がってきています。

―ずばり、なにが定着率を左右する分かれ目なのでしょうか。

まずは、企業の方針がしっかり浸透していることです。要望や不満を含めた、従業員の意見をきちんと吸い上げる仕組みを持っている組織は定着率も満足度も高いです。次に非常に重要な要素なのが、役員クラスや、工場長、人事や営業のトップなどにメキシコ人を置いているかどうかです。彼らがリードする立場にいると、組織の現地化がうまくいくんですね。現地の人でも、自分の会社にプライドを持ってやっている人が多く、進出してきているこちらとしては嬉しくなります。日本人でもメキシコ人でも、やるべきことをやれば定着率は上がっていくと思います。

中間管理職を担うメキシコ人育成の必要性

―メキシコ人と働くときに注意するべきことは何でしょうか。

たとえば仕事において、背中見て覚えろ、というのは危険です。相手の思っていることを聞いて理解した上で、会社方針、ルールなどを明確にしやるべきことを納得してもらえるまで説明することが必要です。

―なぜ必要なのか理解してもらう、ということが必要なのですね。

メキシコ人は器用だし勤勉なので、これから国としての成長が期待されているのも納得できます。ただし、全体として中間管理職として採用できるような人材が少ないのが大きな問題です。社会格差があるので、受けられる教育にも差が出ます。公立の学校では、マネージャーを養成する教育が弱いのが現状です。一方、私立学校はお金持ちの子息が行くのが通例でメキシコの有名大学を出た上、アメリカの大学で

一流の経営学を学ぶことが多く、トップ経営者への道が敷かれます。メキシコでは、ブルーカラーか、トップ・オブ・トップの経営者か、とはっきりと二分されていて、中間管理職が生まれ難い情況にあります。

将来的には、日系企業で人材教育を受けたメキシコ人が管理職として、会社を切り盛りしていくことを期待しています。

―日系企業で採用されている現地法人のメキシコ人の方は、ほとんどがブルーカラーのワーカークラスですか。

マネージャークラスだと、全国から人材募集をし、アメリカとのコネクションが強いティファナなど北の方から採用をするケースもあります。中央高原の方でも、グアナフアト大学やケレタロの大学などがアメリカの大学と提携し始めていますので、この問題も将来は解決されるかもしれません。

メキシコ労働市場における問題点

―最低賃金が意図的に抑えられていると聞いたことがあります。

労働市場の需要と供給ということでいうと、たとえば※インフォーマルセクターで働いていた今まで登録されていなかった人が工場で働くようになると、労働力が十分供給されるため賃金が上がりづらくなっている側面があるかもしれません。もちろん将来的には、生産性の上昇に伴って賃金も上がっていくと思います。お話してきたように、製造業は盛り上がっていますが、実はメキシコ国内で消費がなかなか追いついていません。なぜなら給与レベルが十分に上がっていないからです。将来的には底上げしていくと思うのですが、労働市場の約半分がインフォーマルセクターなので、この状況が変わらないと難しいですね。彼らにとっても、製造業が魅力的に映るようになると考えています。

こういった変化も10年後か、15年かかるのか、はっきりとはわかりませんが、メキシコは非常にポテンシャルのある国だと思っています。弊社も全社的にメキシコに注目していますし、安倍首相を始めとして、政府の方や官庁の方など多くの方がメキシコを訪問されています。メキシコサイドも、日本を信頼していろんな事業を依頼してきています。日本の進出企業数は1000を超える勢いで、商工会議所の会員数も435にまでなりました。今後もこの傾向は続くと考えています。国と国のつながりそのものも更に強くなって行くと思っています。

※インフォーマル‐セクター(informal sector)

非公式部門。開発途上国にみられる経済活動において公式に記録されない経済部門のこと。靴磨き・行商などといった職種から構成されている。

現地法人社長が感じる、メキシコの可能性と問題点とは [後編]

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