今年の7月25日から8月7日まで、メキシコのティファナで行われる、Casa Futuro Lab.主催の「クロスボーダー・エクスプレス・ワークショップ」。事業創出ラボの第一歩として、様々な分野からメキシコで事業を起こそうとするチャレンジャーが集まり、実際に事業開発を行います。
参加者インタビュー第2弾として、ヴィーガンスイーツブランドDAUGHTER BOUTIQUE代表の堀川久美子さんにインタビューを行いました。2014年8月に設立し、青山ファーマーズマーケットなどのマルシェイベントや、渋谷ヒカリエ、新宿伊勢丹、有楽町マルイなど商業施設に期間限定出店されており、スーパーフードを使ったヘルシーで美味しい植物性素材のみでできたスイーツが評判を集めています。
メキシコでは、メキシコの食材を使った、メキシコ市場向けのお菓子の試作、事業化に向けての市場調査などを行います。
アパレルショップを持つ夢のために、アメリカへ留学。夢を叶えたものの…
−−お菓子販売をされる前は、どんなお仕事をされていたんですか?
高校生の頃からアパレルのセレクトショップを持つのが夢でした。英語力をつけるため、3年間のOL生活で貯めたお金でアメリカ留学し、帰国後はファッション業界に入りました。セレクトショップの仕入業務や、国内の直営店で展開する商品を発注、新規立ち上げブランドの企画などをしていました。当時の経験は今の菓子製造業でも役に立っています。
−−なるほど。でも、ファッションのセレクトショップから今のお菓子ブランドに方向転換されたというのは、どういういきさつがあったんですか?
仕事柄、トレンドを積極的に取り入れていく必要もあり、ずっと多くものを買うようになりました。素敵なものに囲まれている心地よさより、タンスの肥やしになっているモノへの申し訳なさが勝るようになり「私はこれが好き。これが私のスタイル」とずっと思えるものを、大切に愛用する暮らしが素敵だな、と思うようになりました。
―お菓子のブランドを立ち上げるには、通常はパティシエの学校を卒業して経験を積みますよね。
子供の頃からお菓子作りが好きで、大人になってからも自分のおやつはよく作っていました。海外で流行っているスイーツや、ヴィーガンスイーツ情報をブログで収集しているときに、スーパーフードという存在を知り、特にチアシードの活用に可能性を感じました。これはぜひお菓子に取り入れたい!と、チアシード入りミニマフィンを作っては、周囲にプレゼントしていたんです。それがDAUGHTER BOUTIQUE立ち上げのきっかけです。パティシエとして経験を積んできたわけではないけれど、経験がないとできないわけではないと思っていました。
スーパーフードがコンセプト!立ち上げたお菓子ブランド「DAUGHTER BOUTIQUE」に込められた思い
——なるほど、それからはお店をどのように展開して来られたんですか。
マルシェイベントに出店する機会を頂き、それをFacebookで発信していたら、知人たちが「こんなイベントも出てみる?」と誘ってくれるようになり、月に1度のペースで出店をしながら、ネットショップで販売も始めました。roomsという合同展示会に昨年2月に出展してから、展開先が一気に広がりました。その後、青山ファーマーズマーケットに出店するようになり、今のメインの売り場になっています。
―ところで、DAUGHTER BOUTIQUEのDAUGHTER (娘)は、どうして付けられたんですか?
以前、DAUGHTER DESIGNSというインテリア雑貨ブランドを立ち上げていたんです。当時は、私がデザインした雑貨を家具職人の父に作ってもらっていました。父が作ったものを、娘にも託していくように、時代を超えた雑貨づくりをしたいという思いで、ぴったりだと思いました。
お菓子のブランドを立ち上げることになったとき、ブランド名はDAUGHTER BOUTIQUEにしようとすぐに思いつきました。雑貨ブランドのコンセプト同様、親から子へ、そのまた先へ、ずっと伝えたい質の良い食を提供する、という思いがこもっています。
シングルマザーに、好きなお菓子を作り販売する、という職を
——今回はなぜ、CFLのワークショップに参加されることに決めたのですか。
お菓子作りの世界でも、海外と接点を持って仕事をしたいという気持ちがありましたので、メキシコのワークショップは、これからの展開のきっかけになると思いました。笠原さんにその思いを伝えたら、「フードコミュニケーション」という笠原さんが大切にされているテーマとも通ずるし、やってみましょうと賛同いただき、実現することになりました。
——「お菓子」というフィールドでメキシコで戦うために、どのようなアイディアをお考えですか。
笠原さんのお話を伺っていて、メキシコにはシングルマザーがとても多いということを知りました。お菓子を作って販売することは、比較的スタートアップのハードルが低い仕事なので、「好きなお菓子」を仕事にして生活を支えていくということは、メキシコのシングルマザーたちにとっても選択肢の一つになりうると思うんです。日本でも今後スイーツブランドを立ち上げるノウハウの提供やサポートをしていきたいと考えていたところなので、先にメキシコでその可能性を探ることになりそうで、ワクワクしています。
——メキシコはかなり貧しい方が多く、現在のレギュラーサイズマフィン一個400円の値段設定では、一般的な金銭感覚の消費者層への販売が難しいのでは?というのが正直な疑問です。
確かにメキシコは貧富の差が大きいと聞きますし、どの消費者層を対象とするのかは難しい判断ですね。日本でも、この価格を高いと感じる層はいますし、大衆向けの価格設定ではありません。
しかし利益が得られなければ、事業として持続するのが難しくなるので、バランスを見極めることが必要です。メキシコへの社会貢献要素であるシングルマザー支援の実現を第一に考えながら、ターゲット市場や価格について検討したいと思います。
メキシコの食材リサーチが楽しみ!「ウィタラコチェ」を日本に輸入するかも?
——メキシコには初めてとのことですが、どんなイメージがありますか?
アメリカ留学中一度も怖い目に会わなかったのですが、日本に帰ってすぐにひったくりにあった経験から、海外だから、メキシコだから特別怖い、とは思っていません。
メキシコのお菓子はものすごく甘そうですね。世界一の肥満大国なので、健康でヘルシーなお菓子は売れるポテンシャルが高いのではと期待しています。ブランドのコンセプトでもあるヴィーガンや、スーパーフードといった部分を押し出しつつ、味も美味しく、パッケージもピンクをテーマカラーにポップな色を使って可愛らしく、と工夫しながら「体にいいお菓子」の「味は二の次」「地味」というイメージを覆したいです。
——メキシコで売ろうとされているお菓子のレシピについて、お伺いしてもいいですか?
向こうの人に受け入れられて、なおかつ健康の大切さに気づけるようなものを作りたいです。例えば白い砂糖は使わずにアガベシロップ(テキーラの原料・アガベから作られた蜜)を使えば、「健康・ヘルシー」と、メキシコ人の求める「甘いお菓子」が歩み寄れるのかな、と考えています。ただ当店のレシピは甘さ控えめなので、メキシコ向けには糖度はぐぐっと上げたほうがよいのではと思います笑
——メキシコで楽しみにしていることはなんですか?
今日本で作って販売しているお菓子を、どのように変えたらメキシコ市場で売れるものになるのか、というテストマーケティングが今回のテーマのひとつですが、メキシコで売れると思って作るものが、どういう反応をされるのかが楽しみです。最初から受け入れられるわけではないと思うので、むしろ率直な意見を聞きたいです。
あとはメキシコの食事情のリサーチで、食材を発掘してくるのが楽しみです。日本の市場にはまだ普及していない食材探しや、隣接するサンディエゴでの北米市場のリサーチも含めて、その他現地で新たに発見する調査対象があれば、見てきたいと思います。私のもう一つの肩書きが「ウェルネスフード研究家」というものです。心と体にいいものを研究するのが仕事なので、日本では手に入らない食材と出会うのが楽しみです。ウィタラコチェ(メキシコ三大珍味の発酵トウモロコシ)など、興味のある食材はたくさんありますよ。
——事業立ち上げからまもなく3年目、最後に、堀川さんの今後の目標を教えていただけますか。
ひとつには、このプロジェクトに携わっている限りは、メキシコからの食材輸入販売、商品開発などの企業連携、そしてメキシコでの製造・販売の事業化を実現させたいと考えています。
そして、年内の実店舗出店が大きな目標です。今後事業規模の拡大に合わせて雇用を増やし、組織化を進めて、自分が手を動かさなくても事業が成り立つようにするのが今後のテーマです。そのために必要なことは山ほどありますね。
インタビューを終えて…
豊かな経歴をお持ちの堀川さんの、失敗を恐れない心意気と向上心が、メキシコでどんなマジックを起こすのかとても楽しみです。お土産にマフィンを頂きましたが、イチジク×カカオなど意外性のある組み合わせが楽しく、お味・食感も合わせて美味しくいただきました。そしてずっしり・しっとりしていて食べ応えがあり、お腹の持ちがよいので、残業前に気合を入れたいOLさんや、ダイエット中だけど甘いものが食べたい方にもぴったりです。
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