「現地法人社長 兼 DJ」日本人経営者のメキシコでの挑戦

『Made in Japan』を世界に売り込んだ父親の背中を見て飛び込んだ先はメーカー企業。世界を舞台に多くの挑戦に挑む大野社長にお話しを伺いました。

『Made in Japan』を世界に売り込んでいた父親の背中を見てメーカーの世界へ

−−大野さんの経歴からお伺いします。特に、今の自分に影響を与えているような体験はありますか?

生まれは東京で、スイスとドイツに通算8年くらい住んでいて、高校入学時に日本に戻ってきました。父親はメーカー駐在員で、made in Japanを世界に売り込んでいた第一世代。そういう父親を間近に見ていたので、学生の頃から自分も世界に日本製のものを売り込みたいなと思ってました。就職先を選ぶとき、当時自分の中で一番興味があったのが、音楽と車でした。当時、車は女の子をデートに誘う時の重要なアイテムのひとつ。ドライブ中に良い音楽があると良い雰囲気作れますよね、自分で編集したミックステープをいい音で聞かせるためにはいいカーステレオシステムを…そういうことに夢中な時代でした。あとは当時日本はバブル好景気と株高で、F1(フォーミュラワン)が人気だったんですけど、パイオニアはフェラーリのスポンサーをやっていたりしてかなりカッコいい印象があったので、その辺りが今の会社に入社した動機です。

音楽に没頭していた学生時代

−−DJはいつから始めたのですか?

高校時代はバンド活動をしてましたけど、大学に行ってからは良くディスコ・クラブへ行って踊ってました。もともと音楽大好きだったから、気に入った曲がかかるとDJブースまで行ってDJに曲名・アーティスト名を教えてもらって、それをレコードショップで探して買ったりしてたので、曲はたくさん持ってました。、それから、会社入ってから暫くして、クラブに行っても、顔見知りとの遭遇も減って来て、お客さんの中心も自分よりも若い人たちに世代交代して、なんかクラブがつまらないと思っていた時期がありました。そんな時にプライベートパーティーをしたくなって、自分の好みの選曲をしてくれるDJを探したんですけど、中々見つかりませんでした。だったら、自分で始めようかなと思っていた頃、パイオニアが新規事業としてDJ機器の販売を始めたのです。丁度タイミングが良かったので、社員向けの特別販売でで2台を直ぐに買いました。そしたら、会社のDJ事業部の方から「なんで2台買ったの?」と声をかけられて、その事業に社内DJとして絡むようになりました。なので、DJを本格的に始めたのは社会人になってからです。。

−−現在もご自身がDJをされながら、パイオニアのDJ商品をPRされているんですね。

駐在員の立場から見た他国とメキシコの違い

−−大野さんは、アメリカ、シンガポール、マレーシアと、いろんな国に赴任されていました。メキシコが他の国と違うところはありますか?

一番は、当たり前ですけど公用語がスペイン語なこと。シンガポールもマレーシアも英語が通じたけど、メキシコではそこまで幅広く通じないから、そこが大きな違いだと思います。でも他はそんなに…治安が悪いから気をつけないととかそういう部分はあるが、文化でいうと、特にメキシコシティーは西洋化されているので、そんなに大きな違和感はないですね。

あとは、空気。この気圧の低さ、酸素濃度の薄さと汚さは、身に応えます笑(編集注:メキシコシティーは標高が高く空気が薄い。また空気汚染が社会問題となっている。) 平気な人は全然平気ですが、僕は夜とか鼻が詰まってお酒飲めないみたいなことさえありました。異動してきて初めの方は気候に順応するのが大変でしたね。

−−仕事をする上で、メキシコで苦労したことはありますか?

さっきも言ったように、語学の面で、自ら直接何かを伝える時にフラストレーションを感じる時があります。商品を売り込む際の話で、ニュアンスとかを自分の言葉で伝えられないのは辛いです。あと、市場調査とかを当たり前ですが、スペイン語でやらないといけないのがなかなかしんどいですね。アメリカだと英語での市場情報の密度が濃いですし、、マーケティング自体がすごく進んでいる市場なので、何かを調べるにしても色々切り口を多く多角的に調査出来るのですが、メキシコは市場も発展途上だという事もあり、市場の情報を集めるのに苦労してます。

−−ご自身で商品のプレゼンや、市場調査などもされているんですか?

プレス向けの新商品発表会などでは自分で説明します。自分の興味と、会社の事業がが重なってる所があるから、ユーザー視点で説明しやすいってのもありますけど。

−−メキシコの市場についてはどう考えていますか。

勢いはありますよね。日系企業進出数が加速しているのもそうだし、特に自動車業界のポテンシャルは着任してすぐに感じました。カーエレクトロニクスはコア事業の会社なので、それに乗り遅れる訳にはいきませんから、本社にはメキシコに早めに投資をして、将来の事業拡大への仕掛けを作っておくべきだというメッセージを送っていました。そのような活動の効果もあり、来年ハリスコ州に弊社のカーエレクトロニクス商品生産工場を2つ新設することになったのは嬉しく思います。

あとはメキシコは、客層に多様性があって、富裕層はどんなに高い商品でも買うとか、ターゲットによって顧客の嗜好がはっきり分かれているところが他の国とは違うかもしれないです。だからこそいろんなマーケティングアプローチをするチャンスがあります。アメリカだとオンラインの価格影響が大きいですが、メキシコでは、キャッシュがない低所得者層向けに割賦販売をする事でオンライン価格とあまり競合しない販売手法も新興国的だなと思います。

また、ラテンアメリカの中でも、メキシコは小売流通網がとても発展していますね。多分アメリカの影響でしょうけど、ウォルマートとか大手の量販店がたくさんあるし、だから流通網に乗せて販売しやすいという意味でも、期待できる市場です。今後はさらにコスト競争が激しくなると予想しています。

これからメキシコでビジネスする人にアドバイスするなら、まずはスペイン語をきちっと習得するに越したことはないと思います。これは自分の反省も含めてですが。あとは、社会構造が複雑だから、そういう物事を捉える多角的な視点が必要だと思います。最近メキシコの歴史の本を読み終わったんですけど、勉強になりましたね。メキシコの長い歴史の中で、現代に一番大きい影響を与えているのは、やっぱりスペイン植民地支配の時にできた社会構造なわけで、それは今も大きく変わっているわけではない。そういう歴史の背景を理解していると、戦略策定もやりやすいかもしれません。

―よく聞くのが、メキシコ人はプライドが高くて一緒に仕事しにくい、なんていう話なのですが、そういう体験をされたことはありますか?

うーん、それはあまりありませんけど、メキシコ人との仕事で大変だと感じるのはまず言い訳から入ること。なにか問題が起きた時に、まずは言い訳を一生懸命説明してくる。それを聞いてないといけないのは正直時間の無駄で、こっちとしては早く解決策と防止策の議論に進みたいんだけどな…と思うことはあります。

あとは日本人は人前で怒られても立ち直れるけど、メキシコ人を人前で怒らないとかは気をつけています。でもこれはメキシコだけでなく、アメリカでもそうですね。

メキシコにおけるロードバイク市場への可能性

−−お休みの日とかは、何をされているんですか?

ゴルフを全くやらないので、ゴルフコンペへの参加などはありません。今、ハマっているのはロードバイクです。休みの日の朝にひとっ走りして、昼過ぎに帰って来て料理したりとか。

--ロードバイクですか。それはメキシコではじめられたんですか?

いや、アメリカです。最初はダイエットと体力維持のためにジョギングしていたんですが、会社が新規事業で自転車(ロードバイク)の計測機器事業をやることになって、北米市場への商品導入を担当する事になったので、ロードバイクを購入して試してみたんです。そしたら、、ロードバイは車と同じようなカスタムする楽しみがあって、さらに自分の脚力で風を切って走るの楽しみがあるので、夢中になりました。

パワーメーターというペダル出力を計測する機器を北米市場で導入したのですが、ペダリングを左右独立して計測出来るのは、当時パイオニアが世界初の商品として発売しました。最近は他のメーカーからも同じような機能の商品が発売されて競争が激しくなっています。 技術革新は進んでいて、約10年前に心拍計がスポーツ・トレーニングに使われ始め、トレーニングにおけるパフォーマンスの数値化が重要になって来ました。ロードバイクで言うと1分に何回転でペダルを漕いでいるか、左右のペダリングによるパワー出力がどの程度あって、どこで効率的にペダルを回せているかといった情報がリアルタイムで見えるようになる計測機器を発売したのです。将来的にはさらに血流計とか血中酸素量とかがリアルタイムで見えてくると、さらにトレーニングの指標も変わってきますよね。ニッチな市場なんですが、こういうのがパイオニアらしい商品だと思うんです。

−−パイオニアさんは、音響機器メーカーですよね?そういう計測技術はオーディオ技術とどう重なるんでしょうか?

もともとレーザーディスク事業をやってい頃から、デジタルデータの読み取り技術だったりエラー補正技術を培ってました。またカーエレクトロニクスでは車の振動や熱の環境に耐えられる品質技術を開発していました。それらの技術を応用してスポーツとか、ロードバイク市場に使えないか、考えた方が社内のロードバイク好きに居て、新規事業として生まれた背景です。

特にロードバイクの市場はカーエレクトロニクスと似ているところもあって、カスタムするには専門店で取り付けをしてもらわないといけないので、そこがマネタイズに向いている部分です。単純に家電量販店やスポーツ用品店で売られるようなものではないので。

−−それは、メキシコでも発売されているんですか?

まだ導入に向けて検討中ですけど、メキシコでも自転車、ロードバイク人口増えているし、お金持ちの人は予算とか関係なく高額のロードバイクを買うので、市場としての可能性は感じます。。またメキシコは海岸線も広くて一年中暖かいのでトライアスロンのマーケットが大きく、かなり尖った客層がいるので、そういうアスリートの方からの需要も期待はしています。山口君(編集注:インタビュアー)も自転車はハマるかもしれないよ。エンジンは自分の脚という面白さがありますからね。。

−−自転車ってどうしても事故が多いイメージがありますが、メキシコでの安全面とかはどうなんでしょうか?

ポランコに普段自分のロードバイクのメンテナンスをやってもらっている、Peaple for Bikeという店があって、そこのロードバイクの練習イベントに参加したことがあるんですけど、しっかり安全面を確保するエスコート付きで走ってました。。

もしロードバイクが趣味の人がいたら、チーム作りたいんですね笑 メキシコは道も悪いし、車の運転が荒かったりで、ロードバイクの練習環境としては決して良い環境ではないけど、何人かで一緒に走れば安心して走れるかと思っています。

―今後メキシコで挑戦したいことはありますか?

仕事の方では、来年稼働するメキシコ工場を上手く活用しながら、メキシコでの事業規模を大きくしていきたいです。

プライベートでは、せっかく高地にいるので、ロードバイクのレースに沢山出たいです。近々距離は100kmなんですけど標高3000m地点にゴールがあるようなレースに出場する予定です。

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