GMシラオ工場、労働協約改定へ
自動車産業が集積するメキシコ高原南西部、グアナファト州にあるGMシラオ工場では、労働者の権利侵害が訴えられており、8月17〜18日にかけて、労働協約を承認するための投票が行われました。改正労働法※及び、2020年7月に発効したUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に基づいて、労働者が同意なしに結ばれた低賃金の契約に縛られることがないよう、この投票が実施されました。従業員5,876人による投票の結果、賛成が2,623票、反対が3,214票で否決となりました。これにより、15年間にわたってGMシラオ工場で機能してきた既存の労働協約が無効となりました。
※2019年5月2日に改正されたメキシコの労働法。既存の労働協約が職場の過半数の従業員の投票により承認されなければ失効するということが当労働法により規定されています。
今回の承認投票は元々、2021年4月20〜21日に実施されていましたが、不正行為や投票妨害があったことが発覚し、メキシコ労働社会保障省(STPS)により再投票が命じられていました。そのため、今回の投票はメキシコ労働社会保障省(STPS)や国家選挙庁(INE)、国際労働機関(ILO)から派遣された特選委員の厳格な監視の下で実施されました。USMCAが定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRLM)」による是正措置が講じられたのは、本協定の発効以来、今回が初めてとなります。
投票後のILOとSTPSによる電話会談では、「民主的で透明性の確保された投票であった」という見解で一致したことから、投票はこのまま終結を迎ると予想されています。雇用主(GM)と本工場の労働組合(ミゲル・トゥルヒージョ・ロペス労働組合)は今後、新たな協約を結び直す見通しです。
参照①
参照②
新貿易協定、USMCAとは?
USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定:US-Mexico-Canada Agreement)は、NAFTA(北米自由貿易協定:North Amrica Free Trade Agreement)に代わり、2020年7月に発効された新しい貿易協定です。
米国トランプ政権時代、トランプ大統領は「米国第一主義」を掲げ、諸外国における不公正な貿易慣行や巨額の貿易赤字が米国の富や雇用を奪ってきたと主張し、既存の自由貿易協定の見直しや新たな通商協定の締結交渉を進めていました。そのうちの一つとして見直された協定がNAFTAであり、その再交渉の結果新たに合意された協定がUSMCAです。
USMCAの特徴としては
・環境及び労働に関する法制の強化
・自動車の原産地規則の強化
・労働問題に特化した執行メカニズムを創設
などが挙げられます。雇用吸収力が大きい自動車産業の国内回帰と労働者の保護が狙いとされています。
参照①
参照②
まとめ
今回の承認投票を踏まえ、米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は、USMCAの完全な執行が「貿易を底辺への競争にしないことで、現地労働者だけでなくアメリカの労働者の支えとなる」として、メキシコ政府の迅速な対応を評価する声明を出しています。
メキシコでは従来、労働組合の投票において秘密投票ではなく、挙手などによる採決が多く、それを問題視する声がありました。さらにメキシコで結ばれている労働協約は、従業員が十分に内容を理解していないままに署名されているとの指摘もありました。これらが低賃金や劣悪な労働環境を助長しているとされ、労働者の権利保護の強化を求める声が多く上げられていました。その中で、今回の承認投票は労働者の権利を守る動きの第一歩となったと言えるのではないでしょうか。
現在GMシラオ工場は、自動車製造に必要不可欠な半導体不足という状況を受け、生産を停止しています。今後も、新たな労働協約の成立など、メキシコの最新情報をお届けいたします。
参照