【Debateディベートとは?】
ディベート(Debate)は、 一つのテーマを定め、肯定・否定の二グループに分かれて行う討論。
(参照:広辞苑)
異なる意見や立場を持つ人々が特定のトピックやテーマに関して論じ合う、言葉や論理を用いた議論や討論の形式を指します。ディベートはしばしば公共の場で行われることが多く、政治、哲学、法律、文化、倫理、科学など幅広い領域で行われます。
【Debate Nacional 国民的ディベート(議論)】
メキシコでも様々なディベートが行われますが、政治家や評論家、専門家などによるものだけでなく、友人同士、職場や家族の間でも、日常的な個人的好みや情熱について語り合うディベートが行われます。
おしゃべりが好きなメキシコ人にとって、この日常的なディベートは、一般的には政治や宗教などのタブーとされるテーマから、スポーツについてなど、議論を始めればきりがないテーマまで、多岐にわたります。しかし、その中でも特にメキシコならではのトピックが【食】に関するものです。
【食】についてのディベートは、まさにメキシコの国民的ディベートと言っても過言ではありません。今回、私のアミーガではこのメキシコの国民的テーマである【食に関するディベート】に焦点を当てて紹介します!
【メキシコの食に関する情熱とディベート】
そもそも、メキシコ人が食に対して熱く語りたくなる理由は何でしょうか?
それには文化的な要因が影響しているようです。
メキシコ料理は世界文化遺産に登録されるなど、豊かな食文化と多様性に満ちた料理が特徴なのですが、地域ごとの食材や伝統が存在し、地元の食文化に誇りを持つ人々が多いため、その多様性や特徴、また嗜好を巡るディベートが頻繁に行われ熱く語り合われます。
日本で言うところのご当地愛が、メキシコでは食というテーマに強く表れています。このご当地愛が、食に対する情熱とディベートをさらに加熱させているのかもしれませんね。
【メキシコ食に関するディベート4選】
そんな食に関するディベートのなかから最もポピュラーで良く耳にするものを4つ選びました。
読者の皆さんも是非一緒に考えてみてください。
1.Tortilla de Maíz o Harina?(トルティーヤはトウモロコシ?それとも小麦粉?)
メキシコ料理に欠かせないトルティーヤ。トウモロコシ粉で作る「Maíz(マイス)」と小麦粉で作る「Harina(アリーナ)」、どちらが正統派なのかはメキシコ国内でも議論が絶えません。
メキシコではトウモロコシで作るTortilla de Maíz(トルティーヤデマイス)が主流ということは周知の事実で議論の余地もなさそうですが、トウモロコシその独特の風味と香りを嫌う人たちは、どの料理にも合う小麦粉で作るTortilla de Harina(トルティーヤデアリーナ)を好むようです。
また、アメリカに近い北部の州では小麦粉のトルティーヤも「Tacos al Norteño 北部風タコス」や「Tacos el gringo アメリカ風タコス」などの料理に使われるというように一定の地位を築いています。
メキシコ料理に欠かせないトルティーヤ。トウモロコシ粉で作る「Maíz(マイス)」と小麦粉で作る「Harina(アリーナ)」があります。
メキシコではトウモロコシで作るTortilla de Maíz(トルティーヤデマイス)が主流です。
トルティーヤデマイスは原料であるとうもろこしの栄養素を吸収しやすくするためと、また、トルティーヤにする際に生地に粘り気をだし、まとまりやすくするために石灰水などのアルカリ性水で下処理するため、独特の風味が特徴です。メキシコ料理には欠かせない食材ですが、この独特の風味が苦手な日本人や欧米人が多いようです。
トルティーヤデアリーナは小麦粉を使って作るため、ピザ生地に似た仕上がりになります。出来上がりもトルティーヤデマイスに比べると薄く柔らかいので私達日本人や欧米人には馴染みやすく、アメリカに近い北部の州、ソノラ州、バハカリフォルニア州、チワワ州などでは、小麦粉のトルティーヤは「Tacos al Norteño 北部風タコス」や「Tacos el gringo アメリカ風タコス」などの料理に使われるというように一定の地位を築いています。
両方のトルティーヤもメキシコ料理を食べる上では欠かせないものですが、どちらが正統派なのかはメキシコ国内でも議論が絶えません。
実際に筆者もこの議論に参戦したことがあります!2000年代初頭の日本ではメキシコ料理やタコスには小麦粉のトルティーヤが主流でした。独特の風味があるトウモロコシのトルティーヤはまだ現在ほど受け入れられていなかったことや、流通の問題からだと思いますが、日本で小麦粉のトルティーヤしか知らなかった筆者は、メキシコに初めて来た頃、グァナファト市で行われた友人のホームパーティで「小麦粉のトルティーヤが食べたい」と言ったところ、このトウモロコシvs小麦粉議論を自ら勃発させてしまいました。グアナファト州のようなメキシコ中央高原やメキシコ市以南の地域ではトルティーヤといえばトウモロコシのトルティーヤが現在も主流なようです。
その結果「小麦粉のトルティーヤなんて邪道だ!」「メキシコに来たんだからトウモロコシ!」という多数に圧倒され、泣く泣くトウモロコシのトルティーヤでタコスを食べる。というのが筆者のトルティーヤデビューだったのを今でも覚えています。もちろんその甲斐もあってか今ではすっかり「トルティーヤはトウモロコシ」派になりました!
最近は、欧米人の観光客や移住者も増えたり、ヘルシー志向のメキシコ人も増え(実際はどちらがヘルシーかはまた別の議論になりそうです)、小麦粉のトルティーヤ派も市民権を得たといえるようです。
読者の皆さんはどちらが好みですか?
2.Agua de Horchata o Jamaica ? (オルチャッタ?それともハマイカ?)
メキシコではお馴染みのAgua Fresca(アグア・フレスカ)。
柑橘類や果物の果汁、水、そして砂糖を混ぜて作られるジュースで、メキシコではとてもポピュラーな飲み物です。
色々な味があるなかで一番ポピュラーなのはレモン味のAgua de Limón(アグアデリモン)ですが、皆さんも一度は飲まれたこともあるのではないでしょうか?
種類が多いだけに好みの味も異なるのですが、このAgua Frescaについて、ある議論があります。
それがHorchata(オルチャタ)?それともJamaica(ハマイカ)?です。
オルチャタはお米をベースに作られたジュースで、アーモンドやシナモンの風味があってどこか懐かしい味で、タコスと良く合うメキシコの国民的飲み物と言っても過言ではありません。
一方、ハマイカは乾燥させたハイビスカスの一種を煮出して作る甘く冷たいハイビスカスティーのようなジュースで、こちらもメキシコではどこでも飲める人気の飲み物です。
それぞれ全く違う味なので、議論をするのは難しいですが、もし仮にこの2つしか選べないとしたら... めちゃくちゃ迷ってしまいます!
3.Pizza con piña o sin piña? (ピザにパイナップルってあり?なし?)
パイナップルをのせたピザ、所謂ピザハワイアーナには世界中で賛否が分かれ、メキシコ人の間でもよく議論を巻き起こしています。
パイナップルをカットしてそのまま食べるなら老若男女問わず人気者のパイナップル。しかし、酢豚やタコスなどの料理に入れるとどうしても物議の的になってしまうのはなぜでしょうか?
日本でもお馴染みのハワイアンピザはもちろんメキシコでも目にする機会があります。しかし、メキシコ人の中には「あれはピザじゃない」と批判する人も多いようです。
筆者の友人であるメキシコ在住のイタリア人は、メキシコのピザハワイアーナについて「ありえない...」と一言。
ピザの本場イタリア人にはピザにパイナップルは邪道のようです。
そもそも、ピザにケチャップやマヨネーズなどのサルサをかけて食べてしまうメキシコ人が、パイナップルあり?なし?で議論しているのが面白い側面ですが。。
筆者の個人的な感想ですが、トマトソースに焼かれて甘酸っぱくなったパイナップルは美味しい!
余談ですがこのハワイアンピザ、カナダが発祥のようです。
1960年代にカナダ人のピザ職人が当時人気のなかったパイナップルの缶詰をつかって開発したのが始まりで
その後、全世界で作られるようになりました。
さて、
「パイナップル入りピザはあり?なし?」
この問いかけに対して、読者の皆さんは?
4.Quesadilla con Queso ? o Sin Queso ? (ケサディーヤはチーズ入り?それともチーズなし?)
メキシコでは、政治的、社会的、文化的問題について多くの意見の相違がありますが、ケサディーヤの定義ほど情熱的に議論されるものはないのではないでしょうか?
「チーズがあってもなくてもケサディーヤだ!」と主張する人がいる一方で、「ケサディーヤと呼ばれるならチーズが入っていないとおかしい!」と主張する人たちも存在します。
なぜなら「ケサディーヤ」の前部分「ケサ」は「ケソ」を意味します。「ケソ(QUESO)」つまり「チーズ」ですね。「ケサディーヤ=チーズが挟んである料理」という名前にもかかわらずチーズが入ってないということが解せない人たちが大半なのではないでしょうか?
ケサディーヤについては以前のアミーガの記事で紹介してしています。作り方も簡単で日本で手に入る食材で出来ますので是非チーズ入り、チーズなしの違いを体験してみてください!
家庭でできる「簡単!」メキシコ料理レシピ ケサディージャしかしながら、このケサディーヤの議論は味の好みや嗜好の相違に関するものではなく、地域性を反映したものとされています。具体的には、メキシコシティでは、チーズの有無に関わらず、ケサディーヤといえば、トルティーヤに具を挟んで折り曲げたものとされ、具が挟まっていればチーズの有無にかかわらずケサディーヤと呼ぶことが一般的です。
一方、他の州や地域では、ケサディーヤには必ずチーズが含まれるものとして認識されています。
このため、議論は首都メキシコシティーの住人である「チランゴ(Chilango)」と他のメキシコ人との間で分断を引き起こすことがあり、しばしば激しい論争となってしまいます。
これぞまさにご当地愛。両者の主張はいつも平行線です。
ケサディーヤについての正しい定義を巡る議論は何十年にもわたって続いてきましたが、ソーシャルメディアの普及によってさらに広がりました。TwitterなどのSNSには、このテーマに関する何千ものコメント、ビデオ、ジョークなどが共有されていますが、未だに解決されていないようです。
また、スペイン本国だけでなく中南米諸国でも広く使われているスペイン語の標準を規定し、スペイン語圏で最も権威のある辞書や文法、正書法などを制定するスペイン王立アカデミー
(Real Academia Española) https://www.rae.es/
と、それに関連するメキシコ言語アカデミー(Academia Mexicana de la Lengua) https://www.academia.org.mx/は、この議論に終止符を打つために、ケサディーヤを「チーズやその他の具材を詰めた、熱いうちに食べるトルティーヤ」と定義しました。これによって言語学的に説明がなされディベートによる着地点が見出されたようです。
つまり、チーズが含まれていてもいなくてもケサディーヤという結論になったのですが、
ここで引き下がらないのがケサディーヤチーズあり派です!
首都メキシコシティーのケサディーヤチーズなし派の多くはTwitterで「チランゴが勝った」と投稿をしロイヤル・アカデミーの定義を称賛しましたが、一方でケサディーヤチーズあり派は 「アカデミーの見解は間違っている」と反論し、2016 年にはアカデミーの定義を修正を要望しました。
参考記事さすがにここまでくると食の好みというよりは、メキシコシティーとその他の地域との論争となってしまって
ついつい話題にしてしまうと大炎上してしまいそうで怖いですね。
こんな大人気ない議論もメキシコ人にとってはとても大切なことなのかもしれませんね。
【番外編】
以上に挙げたのはメキシコ料理で議論されるディベートですが、日本食にまつわるメキシコ人が繰り広げる有名なディベートもあります。メキシコで巻き寿司を食べた方は一度は目を丸くしたことがあるあの議論がこちら。
Sushi con Queso o sin Queso ??? (寿司にクリームチーズ!?!?)
メキシコで寿司と言えば、ご飯が外巻きになったカリフォルニアロールが一般的です。
しかし、このカリフォルニアロールについてもメキシコ内外で食のディベートが巻き起こりました。
それが「Con Queso o sin Queso(チーズ入りかチーズ抜きか)」論争です。
「寿司にチーズ???」と驚かれる方も多いことでしょうが、メキシコではカリフォルニアロールにクリームチーズを加えることが既にデフォルトとして浸透しています。
長らく、「Con Queso(チーズ入り)」が当たり前で、チーズが入っていないカリフォルニアロールはまるで寿司ではないと言える状況が続いていました。
しかし近年、メキシコには本格的な日本食レストランが増え、本物の日本食を求める人々が増えたことから、「Sin Queso(チーズ抜き)」派も増加してきました。
それでもなお、チーズ抜き派は少数派であり、特に日本人経営のレストランでは、カリフォルニアロールにクリームチーズをオプションとして提供するところもあるようです。
もともとはスモークサーモンとクリームチーズの相性が良いということでベーグルなどに見られるこの組み合わせは、鮮魚が苦手なメキシコ人に寿司を普及させようとして考えだされたアイデアだそうです。
実は意外にも悪くない組み合わせで、特に生のサーモンやマグロと言った生の魚が入った巻きすし(ロール寿司)と相性が良く筆者自身もこの寿司とクリームチーズは「あり派」です!
読者の皆さんはどのようなイメージを抱かれるでしょうか?日本ではお目にかかれないかもしれない巻きずしとクリームチーズの組み合わせ、もしメキシコを旅行する機会があれば、この独特な寿司のアレンジに挑戦してみるのも面白いかもしれません。新たな食の世界が広がるかもしれませんよ!
そして、是非身近なメキシコ人とこの組み合わせについてディベートしてみてはいかがでしょうか?
【メキシコで食のディベートはタブー???】
ディベートというと、真剣に意見を交換し合い合理的な考えを追求する堅苦しいイメージがありますが、食に関するディベートはもっと軽やかで楽しい雰囲気で行われることがあります。
もし読者の皆さんが、おしゃべり好きなメキシコ人と楽しい会話を楽しみたいけれど、何を話題にすれば良いか分からないという状況なら、食の話をきっかけにしてみるのはいかがでしょうか?
もしかしたら、一度その話題を切り出すと、止まらないくらい盛り上がるかもしれません。
例えば、「小麦粉のトルティーヤでタコスを食べたい」とか、「寿司にクリームチーズが入っているなんて信じられない!」などのテーマは、政治や宗教に比べて笑いや楽しさを引き出すことができるでしょう。
また、日本人の私達がメキシコで目にした食に関して問題提起をしてディベートを始めたら、議論が深まってメキシコ人との距離がぐっと近くなるかもしれませんね。
ただし、お酒がからんでくると、ついつい議論が熱くなってしまうこともあるかもしれませんので、その点を注意して楽しいトークを楽しんでくださいね。
こうした軽快な食のトピックは、文化や習慣の違いを楽しみながら、新たな友情や理解を広げる良い機会となることでしょう。
【まとめ】
今回、アミーガではメキシコの食にまつわるディベートについて紹介しました。
メキシコ料理は単なる食事を超えて、文化やアイデンティティの一部として捉えられており、その多様性と情熱は日常の中でよく議論の的となることがあります。
そして、食にまつわる議論は、メキシコの人々が自身の好みや地域の伝統を通じて繰り広げる楽しい会話の一環となっています。
これらは単なる議論という枠を超えて、笑いと楽しさをもたらすだけなく、文化の多様性や個々の好みの違いを話す良い機会かもしれませんね。
食は、人々が交流し、つながりを深めるための素晴らしい媒体であり、お互いをより良く理解する手助けとなるものです。メキシコに住んでる方やこれからメキシコを旅行する方、色々な形でメキシコと関わる方々にとってメキシコの食にまつわるディベートは、メキシコ人との会話のきっかけになるだけでなく、食を通じて新たな発見をしてみてください!