デザイナー・中村さんがメキシコで目指す「夢のある家」と、オドロキのアイディア

いよいよ迫ってきました。7月25日から8月7日までメキシコのティファナで行われる、Casa Futuro Lab. 主催の「クロスボーダー・エクスプレス・ワークショップ」。ラボリーダーインタビューの最後を飾るのは、プロダクトデザイナー、塾経営者、大学研究員とさまざまな肩書きを持つ、中村昌平さん。近い未来、メキシコでどんなトレーラーハウスができるのか伺ってみました。

「4足」のわらじを履く中村さん

——中村さんは「大阪大学の研究員」だとお伺いしていますが、その他に肩書きを3つお持ちだとか…

自分の肩書きを話すのは難しいですね。基本的には自分のフィールドである、研究、教育、デザイン、サッカーの4つの円を、一つに昇華させていくような生き方をしています。阪大では産学連携本部イノベーション部の研究員ですが、子供向けのデザイン塾、自分のデザイン事務所の運営と、サッカースクールの経営とコーチングに携わっています。

——…お聞きしたいことがたくさんあるのですが、まずデザイン塾というのはどのようなものでしょうか?

小・中学生向けのデザイン塾をやっています。日本でデザイン教育に触れる初めての機会は、美術大学・芸術大学用の予備校なんです。でもグローバル化が進む中、「誰もがわかるように意味を伝える」「記号」としてのデザインに、小さい頃から親しむ機会があるべきではないかと思ったんです。

——グローバル化に向けて、というのはどういうことでしょうか?

これからの時代は、同じ言語・文化背景を持つ人同士だけでなく、世界中の誰もがすぐにわかるデザインが求められます。それを作り出すには、一定のロジックに基づいた思考を訓練することが不可欠なんです。

——ご自身のデザイン事務所では、プロダクトからグラフィックまで請け負っておられるんですか。

そうですね、プロダクトデザインだけでなく、グラフィックデザインもします。次元は違えど、「文脈を読み込む」という方法論でデザインする点では同じことだと思っています。仕事も、グラフィックの方が多いですね。

——ものすごいバイタリティーですね。どうしてそのようなタフな道を選ばれたんですか。

組織に所属しつつ、自分で何かするのが向いているんでしょうね。笠原さんとの出会いも影響しています。大阪大学の兼松先生を通じて知り合ったのですが、初めて会った時から意気投合して、それからはどんどん巻き込まれていく感じです笑 情熱を形にしていく姿に、自分も刺激を受けています。

(笠原さんインタビュー記事)【ストーリー】Casa Futuro Lab.プロジェクトは、メキシコの貧困層を救う光となるのか。

ティファナのプロジェクトでは、最先端技術を使った「未来の家」をデザイン

——確かに、笠原さんには、人を巻き込んでいく力がありますね。中村さんは、どういうところに共感されたんでしょうか。

資本主義が絶対化されている世界で、日本が、メキシコが、ものづくりの世界からできることは何か常に考えているところです。むやみに拡大していくのではなく、自分のできる規模感で、顔が覚えられる範囲でやっていきたい。そういう風にいつも仰っています。僕も反骨精神旺盛なので、笠原さんにも似たようなものを感じました。

 ——今回の夏のプロジェクトには、どういうきっかけで入られたんですか。

「メキシコ一回来てよ。」と言われて、2月にティファナの工場に伺いました。トレーラーハウスのプロジェクトは、僕が所属しているデザインチームのTiedと連携して進めようという話だったんですが、夏のプロジェクトのポスターをみると、自分がワークショップのリーダーになっていて…驚いて笠原さんに電話しました。「チームで参加するのでは…」「いや、君が起業するんだよ」と。笑 責任の重さが全然違うので戸惑いましたが、目標や目的は変わらないし、笠原さんといるとおもしろいのは確信があったので、やることにしました。

——今回のプロジェクトでは、山雄さんとも連携されているんですか?

山雄さんはトレーラーハウスを使った「コミュニティー」が機能するためのデザインを、僕は家そのもののデザインを担当しています。走行可能である利点の一方、予算もスペースも限られているので、空間を効率的に使った、未来的なものづくりが求められます。例えばリサイクルシステムとか、IoTシステムとか、まだ検討中ですが、新しい未来家具、未来家電をいろいろ考えています。

「かっこよくて、住みたくなるトレーラーハウス」を作りたい!お楽しみ企画も…?

——今中村さんの頭の中にある、具体的なアイディアをお伺いしてもいいですか。

「食」がテーマなので、キッチン周りから始めようと思っています。例えば、リサイクルボード(産業廃棄物からできた素材)の業者と提携した、安い使い捨ての食器が一案です。僕がトレーラーハウスに泊まった時、水の確保が難しいなと思いました。これなら、食器を洗うために水を使わなくて済むし、トレーラーに重い食器を積む必要も無い。それを燃やして走行エネルギーにすることもできるかもしれません。

——新しいですね!!未来的です。ですが、メキシコ人の低所得者層には、このような最先端技術を使った家が必要なのでしょうか。

最先進国でも、最貧困国でもないメキシコだからこそ、できるプロジェクトだと思っています。日本でも「0円ハウス」のようなアイディアはありますが、安ければよいというものではない。住みたくなるような、尊厳のある家であることが重要だと思います。メキシコは深刻な格差・貧困問題を抱えていますが、文化がある国なので、このようなコンセプトがある方が喜ばれると思いますね。

——確かに、ただ安い家よりも、住みたくなるような未来的なトレーラーハウスの方が夢がありますよね。

マネタイズを考えても、隣に巨大市場アメリカがあるので、アメリカへ行きたいメキシコ人やアメリカにいるメキシコ人、最終的にはアメリカ人にも売れるということで、ビジネスへのいい影響も期待できます。今回メキシコをターゲットとするのは、様々なメリットがあります。最終的には、日本での展開を目標にしています。文化が違うので、デザインの調整は必要ですが…

——未来の食器、とてもワクワクしますね。他にアイディアはありますか?

未来の食器は、デイタイムプロジェクトです。

——デイタイム?

もう一つ考えているのは、遊び心のつまったナイトタイムプロジェクト。トレーラーハウスで音楽を流して、ダンスをしよう!というもの。みんなで音楽聴くときって密度が上がるので、狭さが活かせるかなと思って。もちろん未来的な要素として、音響や音楽とともに壁が動く、といった仕組みも考え中です。

——メキシコ人受けがすごく良さそうですね。彼らは踊ったり歌ったりするの、大好きですから。

実は大学の頃、研究室の狭い廊下でクラブを開催したことがあって、すごく盛り上がったんです。その時のことを思い出して、トレーラーハウスでもそれできるかも、と繋がったんです。

国境越えで感じた、メキシコとアメリカの決定的な違い

——メキシコには行かれたことがあるのですよね。どのような印象でしたか。

サンディエゴからティファナに下って入ったのですが、国境を越えたら道がガッタガタになり「国境を越えた!」というのがすぐわかりました。観光地周辺は特に貧しさも感じなかったですが、バラックの家が、谷にびっしり張り付いている地域もあって。堀内さん※と、世界の縮図はどこも同じだけど、国によるベースの違いはあるね、というような話をしていました。でも人はふつうだし、ビールは美味しいし、短期間でしたがいいところもたくさん見つけられました。

——最後に次回のプロジェクトに対する意気込みを教えてください。

1週間とか1年ではなく、10年後にちゃんとデザインしたシステムが実現していることを目標にして、着実にトレーラーハウスを形にしていきたいと思っています。今年はまだ1年目。目の前にある「食」というテーマを、メキシコ現地で追求していきたいと思っています。

あと食べ物が楽しみですね。食が日本とは全く違うので、企画をアジャストさせるためにも、どんな違いがあるのかを調べたいです。経済的な面も比較しないといけないですね。

※CFLスタッフの堀内さん。中南米世界一周経験があり、大学では大阪西成区の研究をしていた。

インタビューを終えて…

研究者、講師、サッカーコーチ、デザイン事務所経営と、4足のわらじを履く中村さん。未来が期待されているメキシコだからこそ、未来の移動住居であるトレーラーハウスを実現させたい!という、プロジェクトへの強い情熱が伝わってきました。燃料食器はとても未来的で、画期的なアイディアでした。夏までに、これらがどのように進んでいくのか楽しみです。

  Casa Futuro Lab.のFacebookページ   プロジェクトの状況をリアルタイムでチェック

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