【後編】山田彰大使、メキシコでの可能性と方針を語る。

山田大使インタビュー後編。 今後メキシコでの力を入れる分野、また方針をお聞きしました。

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今後メキシコで力を入れる分野とは。

−−なるほど。他に力を入れておられる分野はありますか?

Tokyo Divertidoに関係がある分野で言えば、今後は日本とメキシコの間では観光が双方向に大きなポテンシャルがあると思います。ただ、両国の相互理解はまだ十分でない、特に日本人がメキシコのことをあまり知らないというのは正直感じます。そのために旅行というのは相互理解の一つの大きなきっかけになりますから、「双方向」の関係促進の一環として、観光セミナーなどを行っています。ただし日本大使館としては、目下の目標は日本へのインバウンド観光客の増加です。

−−インバウンドに関してですが、山田大使が日本の大使として考える「日本のここがいいですよ」という魅力はなんですか?いくつかあげてください。

メキシコの記者に同じことを聞かれて答えましたが、まず、日本は伝統と超近代が共存する国です。お台場のような街がある一方、京都奈良のような伝統的な町もある。メキシコ人の方には、日本の近代的な部分と伝統文化の双方を体験してほしいと思います。

そして日本食。あの繊細な味をメキシコの方には試して頂きたいですね。ラーメンやうどんなどの麺類もよくオススメしています。また、メキシコ人に料理の話をするときには「メキシコ料理と同様に、日本食も世界無形文化遺産です」という言い方をします。これは、メキシコ人の自尊心をくすぐる作戦ですね(笑)。

あとは、日本の物価は決して高くない、ヨーロッパ等に比べるとむしろ安いくらいであると、豊かな自然、そして国民的な楽しみである日本独自の温泉。こういったことを体験していただきたいと思っています。

ビジネスの場としての可能性

——先ほども少しお話が出ましたが、ビジネスに関してメキシコが他の国と比較して勢いのある部分はなんでしょうか。

まず、なぜメキシコにこれだけ投資が増えているのかというと、最大の市場であるアメリカに近い、両大洋岸にきちんとした港があることをはじめとして比較的インフラが整っている、そして世界で最も自由貿易協定網が発達している、という好条件が揃っているためです。特に、北米自由貿易協定(NAFTA)をはじめとし、日本との経済連携協定(EPA)他、EU、ヨーロッパ各国や中南米諸国との自由貿易協定(FTA)を結ぶなど、世界有数の自由貿易大国であるということは、ビジネスをやる上では大きなメリットです。また、メキシコは現在、政治と経済の安定性が比較的高い。20世紀は80、90年代に2度の経済危機を経験し、政治的にも不安定な時期がありましたが、21世紀に入ってからは安定し、さらに親日国なので政治外交的リスクもほとんどありません。労働コストの面で見ても、一人当たりのGDPは高いですが、労働コストは低く、他の中南米諸国と比べても、製造業における大きなストの発生率が低く、労働力の質が高いと言われています。研修するときちんと勉強して勤勉だと日系企業の方はみなさん仰っています。遠いという印象はありますが、太平洋を隔てた隣人であって、距離という面では今や大きな障害ではなくなってきています。

もちろんメキシコには課題もあり、その最たるものが治安です。日本人がターゲットになっているわけではなく、あるとしてもその多くは車上荒らしなど、対策をすればかなり防げる事件です。大使館としては、日本国民のみなさまの安全の確保を最優先のプライオリティーを持ってやっていますので、情報の収集・発信を常に行っています。

テロのリスクに関しては、全くゼロではありませんが、中南米、メキシコは他の地域に比べて低いと考えています。

−−日本人は、メキシコにすごく危険なイメージを持っている方が多いと思うのですが、メキシコの治安について山田大使からお話しいただければと思います。

日本だと、メキシコのショッキングなニュースばかりが報道されて、メキシコは遠くて危ない、という話になります。治安については、確かに犯罪率は日本と比較すると非常に高いので、日本と同じような気持ちでいると犯罪に会う確率は当然上がります。これは世界中どこでもですが、国外にいる場合は、脇が甘くならないように注意をする必要があります。それを前提にすれば、メキシコにおいて注意をしていても他国と比べて特別に危険だということはありません。メキシコの場合、犯罪組織や麻薬組織と関与した事件、組織同士の抗争による殺人が多いので、日本から来た方がそういう事件に巻き込まれることはあまりないと思います。拳銃を使った強盗事件なども起きていますが、しかるべき対策を取り、危ないところに夜一人で歩かないことなどは常識的なことですから、注意を払って、メキシコでも楽しく旅行し、楽しく暮らしていただければと思います。

メキシコと日本の共存を願って。

−−様々な業界がメキシコに進出しています。メキシコで仕事をするなら、こういう点に気をつけて、というアドバイスはありますか。

メキシコに限りませんが、どんな国でもいいところと悪いところがあります。その中で、いいところをみつけて楽しみ、活用することが大事だと思います。メキシコは、美味しい料理も見どころもたくさんある、魅力の多い国だと思っています。そして、その国に対する敬意を忘れないことは大切です。地方ではまだ発展していない地域もありますが、見下すような態度をとることは、特にビジネスにおいては御法度です。ビジネスをする場合は、彼らの習慣や文化に対する尊重が欠かせないからです。

基本的には郷に入れば郷に従え、ですが、たまには変えてもらわないといけないと思うこともあるかもしれません。例えばメキシコ人に対して困ることとしてよくあるのが、時間の考え方の違いです。ただ、その違いも、メキシコ人は話せば分かる人が多いので、なぜそうしなければいけないのか、ということを説明し、訓練することが必要だと思います。日系企業は、教育・人材育成に力を入れていて、これは長期的な経済発展の観点からも不可欠な要素です。メキシコは日本が進んだ国だと理解しているので、パートナーシップを組むことはメキシコ側からも歓迎してもらえます。

実はこれは外交的なメッセージでもあります。安倍総理が中南米を訪問した時に「juntos(一緒に)」というテーマを掲げました。これは、中南米の国々とともに発展していく、協力していくという方向性で持って、ともにパートナーとして働いていこうということです。

日本とメキシコは、今も大変良い関係にありますが、これからさらに発展していくことでしょう。つまり、日本とメキシコにとってもっと良い時代はこれから先に来ると確信しています。

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